ノンテクニカルサマリー

国際技術連携と海外拠点

執筆者 鈴木 真也 (武蔵大学)/池内 健太 (研究員)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

学術研究から得られた知識の産業上の利用を促進する方法として、大学等の研究機関と企業との間の連携が重要となる一方で、研究開発活動の国際化という近年の傾向を反映して、研究パートナーとして外国の組織を選ぶ企業も増えており、少なからぬ数の日本企業が外国の大学と技術面での連携を実施していると考えられる。しかし、産学連携に関する先行研究の多くは国内の文脈での分析に焦点を当てており、企業と大学との間の国際的な連携についての研究は限られている。そこで、本研究では、外国の大学との国際技術連携の中で企業の研究開発成果に影響を与える要因を調べるために、共同執筆論文の情報を用いて国際技術連携を実施している日本の製造業上場企業のパネルデータセットを構築し、分析を行った。

まず、連携パートナー大学の所在する国での海外拠点の存在や連携パートナー大学所在国の特性が、当該企業の研究開発成果に対してどの程度の影響を与えているのかを見るために、国内連携のみの企業との比較も交えながら記述統計を用いた分析を行った。

国内の大学のみと連携している企業と海外大学とも連携をしている企業を比較すると、国内連携のみの企業の方が研究開発活動の成果に関する効率性が高いように見える。しかし、国際連携のパートナー大学の所在する国に当該企業の海外拠点が存在する割合が平均より高い企業は国際連携を実施した場合においても研究開発成果の効率性が高くなっている。同様に、国際連携のパートナー大学の所在する国が先進国中心である企業は国際連携においても効率性が高くなっている。一方、国際連携のパートナー大学の所在する国が新興国中心である企業は、技術面での成果の効率性は高くはないが、海外売上の成長率が相対的に高い傾向にある。

次に、連携パートナー大学の所在する国での海外拠点の存在や連携パートナー大学所在国の特性の影響についてより詳細に見るために回帰分析を行った。分析結果からは、連携パートナー大学の所在する国に当該企業の拠点が存在する割合が高いほど、海外大学との連携は当該企業の研究開発活動の成果を高めることが示された。また、連携パートナー大学所在国が先進国である割合が高いほど、海外大学との連携は当該企業の研究開発活動の成果を高めることも分かった。一方で、連携パートナー大学所在国の海外拠点の研究開発力が高いほど、海外大学との連携は当該企業の研究開発活動の成果を高める、という効果は確認できなかった。

これらの結果を考察すると、以下のような示唆が得られる。まず、国際産学技術連携を実施している企業の研究開発成果は、国内の産学技術連携のみを実施している企業に比べ、必ずしもその費用対効果が高いわけではないことが分かる。企業が外国の研究機関との国際技術連携に乗り出す際には、注意を要する点であろう。その一方で、企業の持つ海外拠点などのさまざまな経営資源をうまく活用することで、国際連携を実施していても効果的な研究開発パフォーマンスを発揮することができると思われる。逆に、海外拠点所在地と無関係に国際連携をしている企業は、研究開発成果の効率性が低くなっている。(図1参照)

また、所在国のタイプという意味で国際連携パートナーの機関を適切に選択することで、国際連携を実施しつつも高い研究開発パフォーマンスを発揮することができるともいえる。しかし、このことはむしろ企業の国際連携の目的がパートナー機関の所在国のタイプによって異なっていることを示唆していると考えるのが自然であろう。つまり、研究開発成果の獲得だけが国際的な産学技術連携の目的ではない。本論文では、新興国中心の産学技術連携を実施している企業は海外売上高の成長率がより高いことも確認しており、新興国中心の産学技術連携は市場開拓に寄与している可能性がある。

これらの点を考慮すると、海外機関との連携を含めた日本企業の研究開発活動を、政策を通じてサポートする場合には、企業の海外拠点での活動と国際的な産学連携を一体的に支援することや、対象となる国際連携の目的を十分に把握することが重要であろう。

図1:国内産学連携のみ実施企業と国際産学連携実施企業の研究開発活動の効率性(研究開発費あたりの特許被引用数):連携相手所在国での海外拠点保有比率と先進国割合の高低による比較
図1:国内産学連携のみ実施企業と国際産学連携実施企業の研究開発活動の効率性(研究開発費あたりの特許被引用数):連携相手所在国での海外拠点保有比率と先進国割合の高低による比較