ノンテクニカルサマリー

「中間財の国際調達が企業パフォーマンスに与える影響」―企業および事業所の生産性と輸出、雇用に注目して―

執筆者 金 榮愨 (専修大学)/乾 友彦 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

近年、中国からの輸入の拡大が自国にもたらす経済的な影響に関する研究がアメリカを中心に活発に行われている。Autor et al. (2013) はアメリカの雇用に与えるマイナスの効果を明らかにし、大きな反響を巻き起こした。それを皮切りに行われた多くの研究の結論は必ずしも一致しておらず、その経済が置かれている状況や輸入財の特徴によって異なる分析結果を出している。日本経済に関してはTaniguchi (2019) の研究によれば、中間財の輸入が多いために、中国からの輸入がむしろ企業の雇用を増やす効果が確認された。本研究は、このような背景のもとで、中間財の国際調達が製造業企業、事業所の生産性、輸出、雇用などのパフォーマンスに与える影響を分析した。

近年の生産工程の国際分業の進展に伴い、企業のオフショアリングや海外アウトソーシングが当該企業及び関連企業に与える影響に関心が高まっている。OECD作成によるGlobal Value Chain Index(GVCI)で日本企業のグローバルバリューチェーンへの参加度をみると1995年の29.3%から2009年には47.7%へ上昇しており、国際的な生産や調達のネットワークを構築することで、生産体制の最適化、国際競争力の向上を図っているものと推察される。実際、国際調達を行っている企業(輸入企業)と調達のない企業(非輸入企業)の全要素生産性(TFP)を企業データによって単純に比較すると、輸入企業の生産性が非輸入企業の生産性を約5.3%上回っている(図)。

図:輸入企業(Importer)と非輸入企業(Non-importer)との生産性の比較
図:輸入企業(Importer)と非輸入企業(Non-importer)との生産性の比較
出所:『「企業活動基本調査」の個票により』著者作成。

本研究では、『工業統計調査』の個票データを『企業活動基本調査』の個票データとマッチングし、さらに『企業活動基本調査』の企業レベルのデータを、日本企業の海外事業活動を詳細に調査している『海外事業活動基本調査』の個票データにマッチングすることにより、事業所-企業-海外事業といった企業活動全体を視野に入れた分析が可能となった。

企業及び事業所の生産性や輸出などには、研究開発、海外生産、前期の生産性など、様々な要素が影響を及ぼす。上図のような単純比較で考慮されていない要素も考慮して、中間財の国際調達が企業の生産性に与える効果を分析した結果、企業の生産性にはプラスの効果があるものの、事業所の生産性には効果がないことが判明した。この結果から国際調達により企業内部における資源配分の効率化が進み、企業の生産性が高まる可能性があると考えられる。被説明変数を事業所や企業のTFPレベルとし、説明変数として国際調達の有無や国際調達額に加えて、事業所や企業のTFPに影響を与える様々な要因(1期前の企業の生産性、海外進出の有無、海外生産販売額、企業固定効果など、事業所の場合は企業レベルのTFP)をコントロールして推計すると、事業所の生産性には国際調達の影響が認められないが、企業レベルでは、国際調達のある企業のTFPが無い企業に比して0.5%(固定効果推計では0.15%)高いことが確認された。

企業の生産性をコントロールしたうえで、事業所や企業の輸出行動に与える効果を推計したところ、中間財の国際調達は事業所及び企業の輸出の開始、輸出金額の増加にプラスの効果がある。この結果は、生産性向上による効果に加えて、製造費用の低下を通じて企業、事業所の輸出が促進されることを示唆する。また中間財の国際調達には、事業所、企業の雇用へのマイナスの効果は認められなかった。

輸入の増加は経済にマイナスの影響を与えると考えられがちであるが、海外との国際分業の進展の結果により中間財輸入が増加することは、企業の生産性や輸出にプラスの効果があり、またこのプラスの効果は雇用を減少させるようなリストラによってもたらされるものではないことが本研究の分析結果から示唆された。しかし多くの企業にとって国際的なネットワークに参加するのはハードルが高い。特に中小・零細企業は、一般的に情報格差等により国際調達が難しい状況にあることが想定され、このような企業に対しては国際的な調達ネットワークに参加できるような情報提供や人材育成を支援する政策が望まれる。

参考文献
  • Autor, D.H., D. Dorn, and G.H. Hanson (2013). "The China syndrome: local labor market effects of import competition in the United States," The American Economic Review, 103 (6), 2121-2168.
  • Taniguchi, M. (2019). "The effect of an increase in imports from China on local labor markets in Japan," Journal of The Japanese and International Economies, 51 (1), 1-18.