ノンテクニカルサマリー

日本の創業企業と創業金融の実態

執筆者 内田 浩史 (神戸大学)/郭 チャリ (神戸大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

本稿の目的は、日本における創業企業と創業金融の実態を明らかにすることである。本稿では2017年に筆者たちの研究グループが行った2つの創業アンケート調査から得られる3つの創業企業サンプル(TDB(帝国データバンク)調査創業企業、TDB新設企業、Web調査)から得られるデータを用い、記述統計を分析して創業企業の特徴、創業企業による資金調達手段の利用状況、資金制約の実態を示すとともに、因子分析の手法を用いて様々な資金調達手段の利用パターンを明らかにした。また、同じ分析を日本政策金融公庫の新規開業実態調査(JFC(日本政策金融公庫)調査)、アメリカの創業企業調査(KFS(Kauffman Firm Survey)調査)に関しても行い、4調査5サンプルの間で結果を比較した。

本稿で得られた結果からは、創業企業には様々なタイプが存在し、創業金融の実態も異なることが明らかになった(次頁の表を参照)。まず、4つの調査を比較すると、創業者の性別、年齢、学歴、業種の分布が異なる、違ったタイプの創業企業を捉えることができることが分かった。また、従業員数で見た企業規模は、Web調査、TDB調査の創業企業、KFS調査、TDB調査の新設企業、JFC調査の順で大きく、また創業に必要な資金の額の順もこれに比例することが分かった。この結果は、創業企業の調査として頻繁に用いられ、小規模事業者を捉えていると考えられていたJFC調査が、むしろ相対的には比較的規模の大きな創業企業から成るサンプルであることを示している。また、創業に必要とした不動産の調達に関してTDB調査では賃貸した企業が多いのに対し、Web調査では不動産を必要としなかった企業が多いこと、TDB調査の新設企業には既存企業の子会社あるいは関連会社が一定程度含まれていること、などの結果が得られた。

創業企業の資金調達に関しては、経営者の自己資金を利用する企業が非常に多い、という点で各調査の結果は似ているが、TDB調査の新設企業ではその比率がやや低く、親会社から資金調達を行う企業が一定数存在している。またその他の資金調達手段としては、JFC調査を除いて経営者の親族や友人など内部者からの調達、民間金融機関からの借入、政府系金融機関からの借入、の順に利用が多いものの、自己資金の利用に比べると非常に少ない、という点は共通している。他方で、TDB調査に比べてWeb調査ではこれらの手段を用いる企業の比率が低く、小規模で創業資金が少ないWeb調査のサンプルにおいては自己資金以外の資金調達手段を用いていない企業が多いことが分かった。さらに、運転資金の調達方法は創業資金の調達方法と異なること、複数の手段を組み合わせて調達するパターンにも調査間で顕著な差が見られることも分かった。

表