執筆者 | Andrea BONFATTI (University of Padua)/Selahattin İMROHOROĞLU (University of Southern California)/北尾 早霧 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 少子高齢化における個人のライフサイクル行動とマクロ経済分析:財政・社会保障政策の影響 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
マクロ経済と少子高齢化プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「少子高齢化における個人のライフサイクル行動とマクロ経済分析:財政・社会保障政策の影響」プロジェクト
世界各国で高齢化が進行している。日本を筆頭とする先進国のみならず、新興国をはじめ大多数の国と地域において、死亡率の低下と平均寿命の延伸、出生率の減少、人口成長率の低下と高齢者割合の増加トレンドがみられる。
本論文では、高齢化のタイミングと税・社会保障制度の異なる地域間の資本移動が、高齢化の進む日本におけるマクロ経済および財政推計に与える影響を分析する。人口規模、出生率と死亡率変化のタイミング、社会保障制度の違い、所得水準等を基準として、日本と関わりの高い国を(1)高所得国地域(HI, High-Income Region)、(2)中所得国地域(MI, Middle-Income Region)に分け、(3)日本を加えた3地域の開放経済モデルを構築する。3地域における人口動態の概要は図1で示される。また、各種税率や公的年金制度など政府規模の違いについてもモデルに取り込む。
寿命の延び、生産年齢人口の減少によって資本・労働比率は上昇し、実質金利は低下する。閉鎖経済を仮定した場合、各地域において同様の動きが生じるが、高齢化のタイミングと規模、制度の違いによって金利変化のスピードは異なる。年金等の社会保障制度が充実していれば、そうでない場合に比べて寿命の延びに対する貯蓄の反応は鈍くなる。
日本においては今後、労働供給および総貯蓄水準ともに低下する。今後数十年は労働の減少スピードが上回ることから金利への低下圧力が強まるが、2040年前後にはこの金利低下傾向は一服する。それに対し、今後長期にわたり日本や高所得国地域を上回るスピードと規模で高齢化が進む中所得国地域では、貯蓄は一貫して上昇を続ける一方で労働供給は低下の一途をたどる。こうした貯蓄・労働比率の違いは、開放経済においては資本移動を促すこととなり、2040年以降中所得国地域から日本への資本流入が加速する。現行制度の維持を仮定したベースラインモデルにおいては、日本の対外純資産は図2に示すように、2040年代半ばにはマイナスに転じるという分析結果となった。
出生率や死亡率推計の違いや、日本および他の地域での政策の変化によってマクロ変数の移行経路は異なるものの、想定しうるシナリオのもとでは対外純資産の減少と2040年代前後に日本が純債務国に転じるという結果には変化のないことが明らかになった。
地域間の金利差を解消するような資本移動が起きれば、高齢化による財政の影響も大幅に緩和されるとは期待しにくいことも示された。資本流入が起きれば資本コストも低下するが、同時に生じる賃金の上昇は社会保障支出の拡大に拍車をかけるため、ネットでの財政効果は自明ではない。ベースラインのシミュレーションにおいては、閉鎖経済を想定した場合と比べて若干の負担減となるものの、大きな違いとはならず、財政支出拡大の抑制には、国内労働市場や政策の変化が必要となることが確認された。