ノンテクニカルサマリー

投資家とスタートアップ企業のコミュニティ構造:投資レベルデータとStochastic Block Modelを用いた実証分析

執筆者 幸若 完壮 (神戸大学)/宮川 大介 (一橋大学)
研究プロジェクト ハイテクスタートアップの創造と成長
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「ハイテクスタートアップの創造と成長」プロジェクト

成長の源泉としてスタートアップ企業の果たす役割が注目されている。特に、先進諸国において更なる経済成長を実現するために、斬新なアイデアを基に新しいビジネスを創出するスタートアップ企業への期待は大きい。本研究では、日本におけるスタートアップ企業の資金調達状況を理解する目的から、個々の投資レベルで計測された高粒度のデータに対して、ネットワークサイエンス分野で開発された手法(Stochastic Block Model: SBM)を用いることで、日本のスタートアップ企業と投資家の投資コミュニティ構造を特定し、更に、そのコミュニティ構造と投資パフォーマンスとの間の関係を検討するものである。具体的には、投資家からスタートアップ企業に対して実施された15000件程度の投資実績データに基づき、投資家群とスタートアップ企業群からなる複数のコミュニティを特定した上で、個々のコミュニティが、スタートアップ企業業種、投資家タイプ、投資リターン、IPO後の市場移動に関して何らかの特徴を有しているか否かを統計的にテストした。

図

上図は特定されたコミュニティを投資家群(縦軸の各目盛りが投資家グループに対応)とスタートアップ企業群(横軸の各目盛りがスタートアップ企業グループに対応)からなるマトリクスとして表示したものである。赤色のセルに対応する投資家グループとスタートアップ企業グループが、投資実績の多い(活性度の高い)コミュニティを示している。

活性度に関する上位10コミュニティ(例:破線囲み)を対象とした特徴づけから、第一に、個々のコミュニティ毎に、特定の投資家タイプ(ベンチャーキャピタル、商社、銀行、証券会社、事業会社、従業員持ち株会、政府、大学、個人など)のクラスタリングが確認された。このことは、同タイプの投資家が共同で投資する傾向にあることを意味している。第二に、一方で、スタートアップ企業業種(Communication、Financial、Business service、IT、Semiconductor & products、Biotechnology、Medical、Energy、Environment、Consumerなど)についてはこうしたクラスタリングが弱いという結果が得られた。こうした特徴を有するコミュニティついて、第三に、投資家サイドにおいてベンチャーキャピタルもしくは非金融事業会社のクラスタリングが見られる場合に、投資パフォーマンスが高い傾向が観察された。これらの結果は、投資家タイプの集積が投資パフォーマンスと相関している可能性を示唆している。

どういった投資家がどの様なスタートアップに投資を行い、結果としてどの様な投資パフォーマンスを実現しているかという問題は、スタートアップに関する金融面での政策的な支援を検討する上で重要な情報を提供するものである。本研究が対象とした高活性度コミュニティに関する分析を拡大した上で、より多くのコミュニティに関する特徴づけを行うことで、日本におけるスタートアップ企業を囲むエコシステムの構造を正確に理解することが可能となるだろう。