ノンテクニカルサマリー

日本企業の構造調整と雇用形態の決定要因:企業特性、オフショアリングと産業ロボット

執筆者 Timothy DESTEFANO (OECD)/羽田 翔 (日本大学)/権 赫旭 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

企業は経済的な変化やショックに対応するために、常に雇用調整という問題に直面している。例えば、不況時において、企業は雇用者数を調整(減少)させることで経済的な変化への対応に迫られる場合がある。結果的に、市場又は国レベルで考えた場合、縮小産業から成長産業へと雇用者が移動することで構造的な変化が達成されることとなる。歴史的に、最も一般的な調整方法は大規模な一時解雇(レイオフ)であるが (Silva et al. 2019)、他国と比較すると日本においてレイオフは一般的ではないことが指摘されている。これは終身雇用、年功序列、労働組合といった日本的経営によって説明されている。その一方で、1990年代の不況以降、日本企業は正規雇用者と非正規雇用者の比率を調整することで雇用調整を行う傾向があることが指摘されている。日本における非正規雇用者の形態は、主にパートタイム・アルバイトと派遣労働者に区分される。前者は勤務先の企業に直接雇用され、後者は派遣会社に雇用された後に勤務先へ派遣される雇用形態である。

経済の変化に対応するためには構造的変化が必要となるが、そのメカニズムとして正規雇用者数と非正規雇用者数の比率に影響を与える要因を特定することは、政策立案者にとっても非常に重要である。本研究では、工業統計調査を用いて、まず産業間および地域間で正規雇用者数と非正規雇用者数の比率に差が存在するかを確認した。図1は、都道府県別に、事業所レベルでの正規雇用者数に対する派遣労働者数の割合の平均値を計算しまとめたものである。2001年と2014年の図を比較することにより、上記変数の数値が高くなってきている(相対的に派遣労働者数が増加している)こと、そしてこれらの数値は都市圏で大きくなっていることが確認できる。

図1:都道府県別の正規雇用者数に対する派遣労働者数の割合
図1:都道府県別の正規雇用者数に対する派遣労働者数の割合
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注:図1は2001年と2014年における正規雇用者数に対する派遣労働者数の割合を示しており、色が濃くなるほどシェアが高くなることを意味している。
資料:工業統計調査の数値を使用して筆者作成

実証分析においては、事業所レベルの正規雇用者数と非正規雇用者数の比率および正規雇用者数と非正規雇用者数の絶対値の決定要因を明らかにしている。中でも、主に企業の生産性およびロボットの導入が上記の変数に与える影響を実証的に分析した。分析結果から、産業ロボット導入によって正規雇用者に対する非正規雇用者の割合は減少し、より多くの正規雇用者が当該企業で雇用されている可能性があることが示唆された。この結果は、間接的に、ロボットの導入が非正規雇用者を代替している可能性も示唆している。また、より生産性の高い企業は、絶対値で確認した場合、正規雇用者及び非正規雇用者をより多く雇用していることが明らかとなった。その一方で、より生産性の高い企業は非正規雇用者数に対する正規雇用者数の割合が低くなる傾向が確認された。

以上のことから、人工知能(AI)やロボットに雇用が奪われる可能性は、主に非正規雇用者に当てはまることがわかった。今後さらにAIやロボットなどの技術革新が進められれば、社会的に弱者である非正規雇用者ほど雇用を奪われる可能性が高まるため、職を失われる非正規雇用者のため再教育支援や社会セーフティネットの整備などの政策的な対応が必要になると考えられる。また、非正規労働者に大きく依存している企業および産業に対しても、非正規雇用者を正規雇用者へ転換できるように企業内教育に補助する必要がある。上記の結果はあくまでも事業所レベルでの分析であるため、今後は本社データと事業所データをマッチングさせることで、組織内における雇用調整の決定要因を確認する必要がある。

参考文献
  • Silva, F., Menon, C., Falco, P. and MacDonald, D. (2019), "Structural adjustment, mass lay-offs and employment reallocation", OECD Science, Technology and Industry Policy Papers, No. 72, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/90b572f3-en.