ノンテクニカルサマリー

中小企業のM&A、自主退出と倒産の選択

執筆者 胥 鵬 (法政大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

近年、中小企業の破産や民事再生の法的整理が減少する一方、後継者難に起因する休業・廃業・会社清算と吸収合併が増えている。この論文は、2002年―2015年の1667社の休業・廃業、会社清算、吸収合併、民事再生と破産の企業の財務データや属性を用いて、図1に示したネスティッドロジットモデル (入れ子型ロジットモデル, Nested logit model)で経営不振中小企業の事業売却や退出の利得を最大化する選択を分析した。まず、売却する(吸収合併される)か、事業退出するかを選び、事業退出する場合に、自主退出するか、倒産かを選ぶ。

図1:事業売却と退出のネスト構造
図1:事業売却と退出のネスト構造

分析結果から、吸収合併された企業は規模が大きく(表の上段の総資産参照)、吸収合併された企業と比べて、民事再生を申請した企業は販売不振(表の上段の売上高総資産回転率参照)、過剰債務(表の上段の負債比率参照)と営業赤字(表の上段の営業利益率参照)に直面していたことが表1から見て取れる。他方、比較的に規模の小さい経営不振企業は休業・廃業・会社清算または倒産で退出する。社齢が長いほど、また代表者が高齢なほど、中小企業は自主退出を選ぶ傾向にある。自主退出企業と比べて、多くの債務を抱えると同時に現金保有が少ない企業は倒産する。とりわけ、このような決定要因はグループ企業や子会社を除く独立企業に当てはまる。

表1:ネスティッドロジットモデル分析結果
表1:ネスティッドロジットモデル分析結果

われわれの分析は、中小企業の事業売却と事業退出の選択を網羅的に分析した点で重要な貢献だといえよう。また、債務超過と収益の著しく悪化した企業は吸収合併や自主退出よりも倒産を選ばざるを得ない実態から、後継者難や人手不足に直面している中小企業の事業の早期譲渡・売却(M&A)を促す施策が欠かせないという中小企業政策的含意も重要である。特に、後継者難の中小企業の買手を増やすために、M&A仲介の促進やM&A資金の制約を和らげる施策は重要である。