ノンテクニカルサマリー

政治的なつながりのある企業は輸出しやすいのか?

執筆者 Yu Ri KIM (東京大学)/戸堂 康之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト グローバルな企業間ネットワークと関連政策に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「グローバルな企業間ネットワークと関連政策に関する研究」プロジェクト

企業は政治家や官僚とつながりを構築し、補助金や融資、情報などを受けることで恩恵を受けようとする。一般的に、このような企業と政治とのつながりは市場による効率的な資源配分を歪め、経済の成長を阻害すると考えられる。

しかし、2000年代初期の中国を対象にした研究では、経営者が共産党員である企業は銀行からの貸し付けを受けやすく、しかも資本収益率が高いことが見出されている(Li et al. 2008)。このように、少なくとも2000年代初期の中国では、企業と政治とのつながりによってむしろ資源が効率的に配分されていた可能性があるが、それは未発達な金融市場を企業と政治とのつながりが補完したからだと考えられる。

それでは、企業と政治のつながりは他の新興国では有効に機能しているのだろうか? 本研究の筆者の1人は、このような問題意識の下、2015年のディスカッション・ペーパーでインドネシアのケースを分析した。その結果、経営者が政治家と個人的につきあいがある中小企業は政府系銀行から融資を受けやすいが、そのような企業は比較的生産性が低いことが分かった。

本研究では、ベトナムの衣料産業の中小企業を例にとって同じような分析を行った。すると、経営者と血縁関係にある者が政治家や官僚であった場合には、政府から情報支援や金融支援を受けやすい傾向が見られた。しかし、そのような企業は他の企業にくらべて輸出をする傾向が強いわけではなかった(図)。輸出をする企業は生産性が高いことが知られているので、政治的なつながりを通して情報や融資を受けた企業は必ずしも十分に国際競争力がなく、政府の支援が輸出につながらなかったと言える。

つまり、中国とは異なり、インドネシアでもベトナムでも企業と政治とのつながりによって、資源が競争力のない企業に分配されてしまっているのだ。

このように、企業と政治とのつながりによって、中国では市場の失敗が修正されたのに対して、インドネシアやベトナムではむしろ経済の非効率性が温存されている。現在、国家との距離の近い民間企業が急成長していると言われている中国であるが、企業と政治とのつながりを有効に経済成長に活用できたのはなぜか。これを解明することは、中国経済を理解し、またその成長経験を他の新興国に応用するためにぜひ必要である。

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参考文献