ノンテクニカルサマリー

サプライチェーンを通じた災害支援策の影響の伝播-東日本大震災の経験-

執筆者 柏木 柚香 (早稲田大学)/戸堂 康之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト グローバルな企業間ネットワークと関連政策に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「グローバルな企業間ネットワークと関連政策に関する研究」プロジェクト

2011年3月の東日本大震災後、日本政府は「グループ補助金」と呼ばれる補助金を被災地の中小企業に支給した。グループ補助金とは、震災によって毀損した資本財(建物、機械等)の修理・購入費用の75%を支援するもので、複数の中小企業から構成されるグループに対し交付される。この補助金は東日本大震災後に初めて導入され、その後、熊本地震、西日本豪雨の後でも実施された。東日本大震災では、2011年6月に公募がかかり、8月に第一回の交付対象企業が発表された。現在、第22次募集分まで交付対象が決定しており、これまでに東日本大震災だけで総額5091億円が交付されている。

本研究では、グループ補助金の効果を定量的に分析した。補助金を受給した企業に対する直接の効果だけではなく、補助金受給企業とサプライチェーンでつながった企業(図1)に対しても政策の効果が間接的に波及したかどうかを推計しているところが、この論文の特長である。

その結果、補助金を受給した小企業(サービス業では従業員5人以下、製造業では従業員20人以下)は、受給しなかった同じような企業にくらべて、震災2年後の2013年の売上が8%、雇用が7%高かったことが分かった。ただし、中企業には補助金の効果は見出されなかった。

さらに、被災地外でありながら被災県内の企業で、補助金受給企業とサプライチェーンでつながっていた企業は、非受給企業とつながっていた企業とくらべて売上が7~9%高かった。これは、補助金の効果がサプライチェーンを通じて非被災地にも波及したことを示している。

ただし、被災県外にはそのような波及効果は見られず、サプライチェーンを通じた政策の波及効果は距離的に遠くには届かない。

このような結果を基に、グループ補助金の費用対効果を計算してみると、表に示されるように、小企業に対する補助金が318億円(分析対象の2012年度まで)だったのに対し、小企業の直接効果は578億円、そのサプライヤーや顧客に対する間接効果は2991億円で、効果の総額は3569億円に上る。したがって、小企業に対する補助金の収益率は1,000%以上となり、非常に大きな効果があったと考えられる。

ただし、上述のように中企業に対する効果ははっきりしない(ただし、データの制約から震災直後の効果は推計できていないことには注意が必要である)。したがって、より効果的に補助金を支給するためには、対象企業を絞ることも必要であると考えられ、今後さらなる研究が必要である。

図1:日本のサプライチェーン
図1:日本のサプライチェーン
(出所)東京商工リサーチのデータから2万リンクをランダムに抽出し、筆者が描画。左図は、全国のサプライチェーン、右図は被災県内におけるサプライチェーンを描いている。
表1:費用対効果分析
表1:費用対効果分析