ノンテクニカルサマリー

日本の失われた十年のmissing growth

執筆者 児玉 直美 (リサーチアソシエイト)/Huiyu LI (Federal Reserve Bank of San Francisco)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

標準的な統計手法では、創造的破壊や新商品の品質向上を正確に価格に反映させることができず、その結果、価格上昇率を過大評価、実質経済成長率を過小評価する可能性がある。この論文ではそれを補正した成長率から標準的な統計手法で計測された実質GDP成長率を引き算したものをmissing growthと呼ぶ。

日本の実質GDP成長率は米国よりも低い(図1, 補正前のグラフ参照)。更に、1983-2013年の米国のmissing growthは年率0.6%程度、つまり、公表されている実質GDP成長率よりも0.6%程度、本当の成長率は高いという研究がある(Aghion et al.,2019)。それが事実であるとすると、日米のGDP成長率格差は更に広がることになる。しかしながら、日本の実質GDP成長率も過小評価されている可能性がある。本研究では日本のmissing growthを、経済センサス、事業所・企業統計調査データを使い、既存事業者のマーケットシェアの伸び率を利用して推計した上で、日米の本当の生産性格差を検証する。

missing growthの補正によって、日本の1997-2009年の生産性成長率は平均年率0.39%ポイント高くなる。しかし、これは米国の0.62%ポイントより0.23%ポイント小さい。missing growth補正前の米国の生産性成長率は日本より平均年率0.75%ポイント高く、missing growth補正後の日米の生産性成長率の差は、これまで知られているよりも30%程度大きくなる(図1, 補正後のグラフ参照)。また、その補正のほとんどは非製造業によってもたらされる。

図1:日米のmissing growth(補正前・補正後)
図1:日米のmissing growth(補正前・補正後)
Source: EU KLEMS March 2008 Release. JIP. ABBKL (2017). Authors own calculations

産業毎に見ると、missing growthが大きいのは、飲食・宿泊業、医療・介護・福祉、対個人サービス業、情報通信業、小さいのは、金融・保険業、製造業である(図2参照)。missing growthが高い業種、低い業種は、日米で似通っている(唯一の例外は、金融保険業のmissing growth は米国では正であるが、日本では負であることである)。

国による異質性より、産業による異質性が大きいことは、新規参入者のイノベーション(品質向上)が既存事業者より大きい産業は日米であまり違いがないことを示唆する。

図2:日本の産業毎のmissing growth
図2:日本の産業毎のmissing growth
Source: Authors own calculations
参考文献
  • Aghion, Philippe, Antonin Bergeaud, Timo Boppart, Peter J Klenow, and Huiyu Li, "Missing growth from creative destruction," American Economic Review, 2019, forthcoming.