執筆者 | 伊藤 宏之 (客員研究員)/フォング・トラン (ポートランド州立大学) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
近年、金融のグローバル化によって国際金融市場が国内の資産価値や長期金利に多大なる影響を与えている。Rey(2013)は、グローバル・ファイナンシャル・サイクルが個々の経済に多大な影響を及ぼしており、米国、EU、日本、中国といった主要経済以外の経済は、金融政策の独立性を維持するために金融市場を閉ざしたままにしておくか、金融政策の独立性が損なわれても金融市場の開放を維持するかという二者選択に直面していると議論している。しかし、この状況においても、金融市場が開放的である限り、長期金利が資本流出入の影響を受けるので、政策当局者が短期金利によって長期金利を操作することが難しくなり、短期金利が長期金利に反映されないという状態を生む。
実際に各国の短期政策金利と米国のそれを見た場合、所得の高い国ほど、その相関関係が強く、新興市場国家やその他の発展途上国では相関関係がそれほど強くない(図1)。世界経済がおおむね開放していることを考えると、米国の政策金利との相関関係が低いということはその国の金融政策が独立性を維持していると考えられる。しかし、長期金利や株式価格の米国との相関関係を見てみると、短期金利、長期金利、株式価格という順序で相関関係が高いことがわかる(図2―3)。それは、リスク・プリミアムが共通のショックとなって相関関係を高めるためと考えられる。短期金利と長期金利の相関関係を見てみると、それは下降基調になっており(図4)、年々経済や金融市場の開放度が上昇していると考えると、金融市場がグローバル化するほど、短期金利と長期金利が弱まるということになる。そうなると、金融政策当局者が短期金利を使って長期金利に影響を与えると考えると、短期金利と長期金利のリンクが弱まるということはそれだけ金融政策の操作するのが難しくなることを意味する。
このような背景から、この論文では、純資本流入量と短期金利と長期金利のリンクの度合いの相関関係について1980-2016年の発展途上国109カ国のデータを使って回帰分析を行った。2SLS(the two stage least square)手法を使ったところ、純資本流入量が多いほど、短期金利と長期金利のリンクの度合いが弱まるという結果が得られた。また、その負の相関関係は、より開放された金融市場、あるいは発展した金融市場ほど強くなりがちであり、国家債務残高が高い経済に見られた。これらの結果は、今後さらなる金融市場の発展と自由化を経験する発展途上国にとってジレンマであるといえる。つまり、より発展し自由化した金融市場を持つことは論理的には経済発展につながるものの、それにより短期政策金利を使って長期金利を操作することがより難しくなることを意味する。それは、発展途上国にとっては試練である。
さらに、マクロプルーデンス政策が短期金利と長期金利のリンクにどのような影響を及ぼすかを回帰分析したところ、資本市場全体に影響を及ぼすようなマクロプルーデンス政策が施行されると短期金利と長期金利のリンクに正の影響をあたえるということが分かった。
- 参考文献
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- Rey, H. 2013. "Dilemma not Trilemma: The Global Financial Cycle and Monetary Policy Independence," prepared for the 2013 Jackson Hole Meeting.