ノンテクニカルサマリー

国際不動産投資と不動産価格:取引レベルデータを用いた実証分析

執筆者 宮川 大介 (一橋大学)/清水 千弘 (日本大学)/植杉 威一郎 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

国際的な資金フローは各国の不動産価格に大きな影響を及ぼしていることが、さまざまな報道で知られている。The Economist誌では、カナダのバンクーバーにおける住宅価格が5年間で倍になったこと、バンクーバーにおける住民所得や借入金の増加ではこうした住宅価格の急激な上昇は説明できないので、海外、特に中国からの資金流入(中国が買い手側の国の場合)がその原因ではないかと推測されること、が述べられている(The Economist "The B.C. bolthole" 2014年6月17日号)。

今回の研究は、こうした外国からの不動産投資の実態を、取引レベルのミクロデータを用いて明らかにしようとするものである。8つの先進国・地域(オーストラリア、カナダ、フランス、香港、日本、オランダ、英国、米国)の市場における約30,000件の比較的高額(おおよそ100万米ドル以上)不動産取引を対象に、買い手が国外に所在する場合に、国内に所在する場合に比して不動産取引価格がどの程度高くなるかを推計した。外国投資家と国内投資家が購入する物件は地理的にも比較的近く、属性はかなり似通っていると推測される(東京における例を図で示している)。

その結果、外国投資家は国内投資家に比して10%強高い価格で不動産物件を購入していること、外国投資家が属する国からの投資経験が増すほど割高に不動産を購入する傾向は弱くなること、が分かった。不動産は物件によって属性が大きく異なっており、それが取引価格に影響している可能性がある。この点を考慮して、同一物件が複数回取引される場合に絞った推計を行っても、経験の少ない国の投資家による不動産購入価格は、国内投資家の購入価格を上回っている。

さらに今回は、外国投資家による行動が国内投資家の購入価格に波及しているかどうかも検証した。具体的には、外国投資家が近隣の物件を購入した後に国内投資家が購入した物件と、外国投資家が近隣の物件を購入する前に国内投資家が購入した物件とを比較して、価格水準に有意な違いがあるかどうかを調べた。前者の方の取引価格が高ければ、外国投資家による購入価格が波及して、国内投資家の価格に影響したと推測できる。しかしながら今回は、前者と後者における国内投資家の購入価格に大きな違いは存在しなかった。すなわち、外国投資家による高値での不動産物件の購入が、国内投資家による不動産の購入価格に波及しているとの証拠は得られなかった。

図:東京圏における不動産取引地点の分布(星は外国投資家が購入したもの、点は国内投資家が購入したものを示している)
図:東京圏における不動産取引地点の分布(星は外国投資家が購入したもの、点は国内投資家が購入したものを示している)