ノンテクニカルサマリー

日本企業のIT化が何故遅れたのか

執筆者 乾 友彦 (ファカルティフェロー)/金 榮愨 (専修大学)
研究プロジェクト 人工知能等が経済に与える影響研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「人工知能等が経済に与える影響研究」プロジェクト

日本経済が直面している労働人口減少問題を乗り越えて、持続的な成長基盤を作り上げるためには、労働生産性を上昇させることが不可欠である。しかしながら、アメリカ、日本の労働生産性の推移を経済協力開発機構(OECD)の統計を用いて比較してみると、労働者1時間当たり国内総生産(GDP、購買力平価、2012年基準)は、1990年にはアメリカ42.1ドル、日本28.1ドルだったのに対し、2015年にはアメリカ62.9ドル、日本41.4ドルであり、日本の労働生産性は25年前のアメリカの労働生産性の水準に留まっている。日本の生産性がアメリカにキャッチ・アップ出来ずにいる一因として指摘されるのが、日本のITの導入の遅れである。

近年の企業のIT投資の動向を経済産業省による「企業活動基本調査」でみてみると、ハードウェアの投資は2008年以降低迷していることがわかる。一方ソフトウェア資産に関しては2006年から2011年にかけて減少傾向にあったものの、その後回復している。しかしながら2014年時点における資産額は4兆7950億円と、2006年時点の5兆4010億円を下回っている。

図:IT投資(ハードウェア、ソフトウェア投資の推移、単位10億円)
図:IT投資(ハードウェア、ソフトウェア投資の推移、単位10億円)
(資料)「企業活動基本調査」より筆者作成

それでは、何故ITの導入が進まないのであろうか。近年の研究では経営管理・組織とIT投資が補完的な役割を果たすものと考えられており、ITの導入を生かす経営組織が整備されていなければIT投資は機能しないことから、ITの導入が行われないことが指摘されている。ITに適した経営組織の代理変数として外資比率の影響を検証したところ、外資比率の高い企業ほど、IT投資を行う可能性が高い結果が得られた。また産業内のIT投資の推進がIT導入と拡大に、プラスの影響があるのも経営資源の重要性を示唆する。すなわち、同じ産業内でIT利用が進めばその使用方法が普及し、IT未導入企業のIT利用を促進する。

本研究の結果から、日本企業のIT導入にはITの利用に親和的な経営管理・組織に移行することが重要であり、一旦そのような組織経営・管理に移行すればITは十分生産性の向上に寄与することが示唆された。今後労働者不足が顕現化することによって、経営者は否応なくIT利用に親和的な経営組織に移行していくことが予想されるが、一方で政府も労働者がより柔軟な働き方を実現できるような裁量労働制の適用拡大などで企業経営をバックアップすることが望まれる。