ノンテクニカルサマリー

自動運転の導入による走行距離への影響:家計への調査を用いた実証分析

執筆者 岩田 和之 (松山大学)/馬奈木 俊介 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 人工知能等が経済に与える影響研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「人工知能等が経済に与える影響研究」プロジェクト

近年、運転者の利便性を劇的に向上させる自動運転への期待が高まっている。この利便性の向上は、人々の自動車利用を促進させる可能性がある。そこで、本研究では高レベル自動運転が導入された場合、どの程度の走行需要が増加し、その結果としてどの程度の温室効果ガス排出量が増加するかの試算を行った。高レベル自動運転搭載車は現時点で未登場のため、本研究では、「高レベル自動運転搭載車に乗ると、運転者の運転時の疲労と事故リスクが現状の半分になる」との仮定を導入し、計量分析を通じてそれらの変化を推定した。

RIETIが2017年3月に実施した平成28年度「自動運転車の潜在需要に関するWeb調査」を用いて、運転時の疲労(休憩間隔)が自動車走行距離に与える影響を分析した。調査では1万456人から回答を得ることができた。分析の結果、運転時の疲労が大きいほど走行距離は少なくなることが示された。したがって、自動運転の導入によって運転時の疲労が半減することは、走行距離を増加させることが示された。また、事故リスクが高い人ほど走行距離が短くなることも確認された。したがって、自動運転による事故リスク減少を通じても走行距離が増加するといえる。

推定結果を用いて、自動運転による疲労と事故リスクが半減したとするシミュレーションを行ったところ、図から、自動運転が無い場合とある場合の走行距離の分布を比べると、全てのモデルにおいて自動運転がある場合の分布は無い場合の分布よりもやや右方に位置していることが見て取れる。より具体的には、平均的家計では年間走行距離が600〜3300km増加することが確認された。この増加はガソリン消費量が約45リットル〜237リットルの増加となる。もし、国内の全車両に自動運転が導入された場合には、この走行距離の増分は650万t-CO2〜3382万t-CO2の増加をもたらすことになる。つまり、高レベルの自動運転は少なくない走行距離と温室効果ガスの増加をもたらすことになる。

また、本研究では取り上げなかったが、走行距離の増加によって温室効果ガス以外の外部費用も増加する可能性も十分に考えられる。たとえば、都市部での渋滞や窒素酸化物や硫黄酸化物、粒子状物質などの大気汚染などがあげられる。これらは走行距離と関係していることが指摘されている。

本研究での結論から、今後の高レベル自動運転の導入に関して2つの政策含意を導くことができる。第1に、燃費の悪い自動車ではなく、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、電気自動車などの燃費の良い自動車に優先して自動運転車を導入する必要がある。なぜなら、燃費の悪い自動車に自動運転を導入してしまうと、温室効果ガスの排出量がさらに増大してしまうからである。第2に、今後の自動車の総台数にも依存するが、走行距離の増加によって交通状況が変わってくる(渋滞の増加の)可能性があるため、道路を含めた交通インフラの状況も注視する必要がある。

図:自動運転の有無別の走行距離の分布
図:自動運転の有無別の走行距離の分布
注)青棒は自動運転無し、白棒は自動運転有りの分布を表している。