ノンテクニカルサマリー

自動運転車が生み出す需要と社会的ジレンマ

執筆者 森田 玉雪 (山梨県立大学)/馬奈木 俊介 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 人工知能等が経済に与える影響研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「人工知能等が経済に与える影響研究」プロジェクト

本稿は、自動運転自動車(自動運転車)の急速な発展を背景として、大規模なインターネットアンケート調査を用いて、日本人の自動運転車に対する潜在需要を2つの視点から分析するものである。

第I部では、走行時に運転者が関与する必要がある部分的自動運転(自動運転レベル3)と、運転者が関与する必要がない完全自動運転(自動運転レベル5)を自動車購入時のオプションとみなし、消費者が自動運転オプションの購入のためにいくら支払っても良いと考えているかを明らかにする。その際、ガソリン車からハイブリッドや電気自動車に変える燃料オプションも組み合わせて質問し、回答の特徴を用いて消費者を図のように5分類した。図中の①〜⑤のグループは、以下の考え方を持っている。

①オプション不要:「どちらのオプションも付けない」が主。お金をもらわないとオプションを付けたくない。
②燃料>0>自動運転:エコカー指向、ただし支払っても良い金額は電気よりハイブリッドの方が高い。お金をもらわないと自動運転にはしたくない。
③燃料≒自動運転>0:どのオプションにもほぼ均等に支払っても良い。自動運転レベル3とレベル5に大差がない。
④自動運転>0>燃料:自動運転には③と同程度の金額を支払っても良い。燃料、特に電気には、お金をもらわないと変えたくない。
⑤自動運転>燃料>0 :どのオプションにも支払って良いが、自動運転には特に多く支払っても良い。レベル3よりレベル5の方が金額が高い。

さらに、それぞれのグループに属しやすい人の特徴も分析したところ、「すべての車が完全自動運転になったら交通事故が減る」と考える人が自動運転オプションを付けたい③〜⑤のグループに入りやすく、運転好きな人が自動運転オプション不要とする①と②のグループに入りやすいことがわかった。自動運転車の普及の鍵として、安全を担保することは言うまでもないが、自動運転が人々から奪う「運転の楽しみ」をどう補償するかが課題となることが明らかとなった。

第II部では、倫理的な問題を考えるとき、消費者の自動運転車購入意思が社会的ジレンマを生み出す可能性を指摘する。自動運転車に搭載された人工知能は、人間の運転者と同様に、簡単に解を決定できない道徳的ジレンマに直面せざるを得ない。運転者が自分を犠牲にして通行人を救うべきか、自分を助けるために通行人を犠牲にするべきかというトロッコ問題も、代表的な道徳的ジレンマの1つである。消費者は、自動運転車がトロッコ問題にどう対応することが望ましいと考えているのであろうか。

米国における先行研究との比較を含めて分析したところ、たとえば、消費者は道徳的には乗車している自分たちを犠牲にしてでも多数の通行人を救うべきであると考えている反面、「自分たちを犠牲にしてでも多数の通行人を救うようにプログラムされた自動運転車」が販売されても、それを購入したくはないと考えている。これは日米で共通の傾向であり、この傾向によって、消費者の道徳的価値観に沿ってプログラムされた自動運転車は購入されにくく、そうでない自動運転車が普及してしまうという社会的ジレンマが生まれる可能性が指摘される。

これらの問題は、自動運転のアルゴリズム設計や法制度設計を行う上で看過できない問題である。本稿では、自動運転車の実用化の過程で社会的ジレンマに対する一層の配慮が必要となることを指摘した。

図1:回答の特徴による消費者の分類と、ある個人が各分類に所属する確率
図1:回答の特徴による消費者の分類と、ある個人が各分類に所属する確率
注1:丸数字は分類を、パーセンテージは個人が各分類に所属する確率をあらわす。
注2:横軸のMWTPとは、他の条件を一定にして各オプションを付けるときに支払っても良い金額のことである。
資料:「自動運転車の潜在需要に関するWeb調査」