ノンテクニカルサマリー

対外直接投資決定における過去の経験と企業間取引の役割

執筆者 Ivan DESEATNICOV (筑波大学)/Konstantin KUCHERYAVYY (東京大学)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

多国籍生産理論は、企業の海外直接投資(FDI)に関して、水平FDIを通した市場探求と垂直的FDIを通した効率性探求という2つの主な動機を提起している(Antras and Yeaple, 2014)。FDIに関する理論研究の多くは、これらの動機のうちの1つのみに焦点を当て、もう一方を無視している。しかし、実証的には企業はこれらの動機を、それぞれある程度同時に追い求める傾向にあることが示されている(Baldwin and Okubo, 2014)。さらに、最近の文献では水平的FDI動機を追い求める企業は、次第に国際化へのプロセスを踏む傾向にあることが示されている(Conconi, Sapir and Zanardi, 2015; Deseatnicov and Kucheryavyy, 2017)。

本論文ではFDIの前に輸出をすることにより学び取る方法と、垂直統合の期待される度合いという、日本のFDIに影響を及ぼす2つの重要なチャネルを取り上げる。輸出を通して学ぶメカニズムは、多国籍企業(MNE)の行動の中で重要な役割を果たすものと思われる。MNEは、まず市場の収益性の潜在性を推測するために輸出を行う。市場で利益を十分に取れると感じると、次に外国に関連会社を設立してFDIを行う。このように、輸出はFDIの決定に重要な役割を果たしている。しかし、MNEは海外関連会社を設立した後でも企業内貿易を行っており、関連会社と親会社のある程度の取引も期待している。この垂直統合の度合いは、FDIの決定にも影響を及ぼす。図1は、日本のMNEの関連会社の総売上高に占める日本向け売上高の割合を示している。この図から、日本企業の垂直統合の度合いはそれぞれ非常に異なっていることが明らかである。

図1:日本のMNEの関連会社の総売上高に占める日本向け売上高の割合
図1:日本のMNEの関連会社の総売上高に占める日本向け売上高の割合

これらの仮説を、経済産業省の企業活動基本調査と、海外事業活動基本調査という2つの非公開のミクロデータを使って実証的に検証する。141カ国/地域に投資する23877社の製造業者のデータセットのうち、多国籍企業4719社の企業活動を1995年〜2015年の期間にわたり分析する。

過去の輸出経験と、外国へのFDIの収益性に関する垂直統合の度合いの効果を実証的に分析すると、両方のチャネルとも日本企業によるFDIの決定に、重要な役割を果たしていることが分かる。過去の輸出経験は、海外市場の需要と不透明性を明らかにすることに役立っている。さらに、最近の文献ではほとんどのFDIは本質的には水平的であると示されているが(Ramondo, Rappoport and Kuhlほか, 2013)、実際には多くの企業は投資を決定する際にはある程度の企業内貿易を考慮し、この垂直統合の度合いがFDIの収益性に、影響を及ぼすことが明らかになっている。FDIを水平的と、垂直的に分ける従来の二分法は広く行き渡っているものではなく、実際には多くの企業は現地販売と、企業内貿易の両方を行っていると結論づけられる。このことにより、複雑な行動を示す多国籍企業の特性と動機を理解するための理論的分析と、実証的分析の新しい可能性が開かれることになる。

政策的な観点からすれば、本研究が主に意味するところは、日本のFDIを形成する上で貿易の開放性が重要な役割を果たしているところにある。もし日本政府が輸出を促進して日本の貿易障壁を削減すれば、海外市場の不透明性が明らかになり、企業内貿易を行うための日本企業のコストが増えるため、FDIを間接的に誘導することになると思われる。このことは、中小企業が海外活動の高コストを負担できないことからすると特に重要な点である。従って、輸出を促進し日本の関税障壁を削減することは、輸出メカニズムを通して学ぶことと垂直的FDIの動機という理由から中小企業によるFDIを促すことになる。日本の国内活動の観点からすれば、本研究の結果は輸入促進政策と、他国との地域貿易協定に参加することも、日本の対内直接投資を誘導する可能性があることを示している。

脚注
  • Antras, Pol and Stephen R. Yeaple, 2014. "Multinational Firms and the Structure of International Trade," in Handbook of International Economics, edited by Gita Gopinath, Elhanan Helpman and Kenneth Rogoff, Elsevier.
  • Baldwin, Richard and Toshihiro Okubo, 2014. "Networked FDI: Sales and Sourcing Patterns of Japanese Foreign Affiliates," The World Economy, vol. 37(8), pages 1051-1080.
  • Conconi, Paola, Sapir, André and Maurizio Zanardi, 2016. "The internationalization process of firms: From exports to FDI," Journal of International Economics, vol. 99(C), pages 16-30.
  • Deseatnicov, Ivan and Konstantin Kucheryavyy, 2017. "Exports and FDI entry decision: Evidence from Japanese foreign-affiliated firms," RIETI Discussion Paper Series 17-E-036, March. ttl. 24 pages.
  • Ramondo, Natalia, Rappoport, Veronica and Kim J. Ruhl, 2013. "The Proximity-Concentration Tradeoff under Uncertainty," Review of Economic Studies, vol. 80(4), pages 1582-1621.