ノンテクニカルサマリー

有形固定資産の再配分と生産性

執筆者 植杉 威一郎 (ファカルティフェロー)/細野 薫 (ファカルティフェロー)/宮川大介 (一橋大学)/小野有人 (中央大学)/内田浩史 (神戸大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

企業間でどのように労働や資本などの生産要素が再配分されているかを調べることは、企業部門全体におけるこれら生産要素の投入量の変化を把握することと同程度に重要である。企業は業種、規模、年齢、生産性などにおいて多様であり、どのような企業が多くの生産要素を得るかによって経済全体のパフォーマンスが変わるためである。例えば、低生産性企業から高生産性企業に生産要素が移動し、高生産性企業が経済に占めるシェアが高まることにより、全体の生産性も向上する。

こうした背景を踏まえて本論文では、日本の1980年度から2014年度までの期間について、先行研究で雇用の再配分について提示された手法を用いて有形固定資産の再配分指標を作成し、これらの再配分程度の時間を通じた変化を測るとともに、再配分と生産性との関係を分析した。特に、1980年代後半から90年代初頭にかけてのバブル期には土地価格の変化が著しかったことを踏まえて、有形固定資産を土地と土地以外に分けて再配分の動向を観察した。

分析の結果、まず、土地の再配分程度は資産価格バブル崩壊後20年以上にわたり低迷していることが分かった(図参照)。バブルの崩壊後、土地をはじめとする不動産の売買は大幅に落ち込み、今日に至るまで低迷したままである点が特徴的である。取得が減少しているだけでなく、売却も2000年代半ばの一部時期を除いて低水準であり、企業間における土地の再配分は、不動産市場が活況を呈しているといわれる近年でも、それほど高い水準にはなかったことが分かる。

加えて、土地やそれ以外の有形固定資産の企業間再配分と生産性との関係を観察すると、生産性の低い企業が保有を増やす一方で高い企業が保有を減らしているという点で、全体の生産性を下げる方向に働いていることが分かった。時期別に見ると、こうした傾向が現れるのは土地では2000年代半ばであり、バブルが崩壊する時期であった1990年代初頭には、逆に生産性の高い企業ほど土地を多く取得する傾向にあった。こうした傾向が見られる原因を明らかにするのは今後の研究課題ではあるが、今回の結果は、企業間の土地などの再配分に何らかの問題が生じていたのは、バブルの生成期よりもその崩壊後しばらく経てからである可能性を示唆している。

図:土地の取得(実線)と売却(破線)比率の推移
図:土地の取得(実線)と売却(破線)比率の推移
(注)四半期ごとの法人企業における土地取得・売却額(簿価ベース)を前期末の土地ストック残高で割ったもの。