ノンテクニカルサマリー

地域金融機関の競争環境が事業所の開廃業に与える影響

執筆者 播磨谷 浩三 (立命館大学)/尾崎 泰文 (釧路公立大学)
研究プロジェクト 地方創生に向けて地域金融に期待される役割-地域経済での雇用の質向上に貢献するための金融を目指して-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「地方創生に向けて地域金融に期待される役割-地域経済での雇用の質向上に貢献するための金融を目指して-」プロジェクト

近年、地域金融機関は地域密着型金融とも呼称されるリレーションシップバンキングの機能強化を推進している。しかしながら、地域経済の衰退に歯止めがかかっているとは言い難い。特に、一部の大都市を除き、事業所の廃業数が開業数を超過する状況が長期的に続いており、雇用の場そのものが地方では減少しているものと考えられる。また、事業所の減少は金融機関の貸出先の減少も意味しており、これらの疲弊する地域経済の実情を反映してか、地方圏を拠点とする地域金融機関の中には、地方中核都市への新規出店の増加により店舗網が広域化している先が少なくない。一方、地域金融機関の店舗総数は減少傾向にあり、既存の店舗の統廃合が進んでいることから、地方圏では取引先との関係が希薄化しつつあることが考えられる。近年、金融庁は地域金融機関の地元企業への積極的な支援について、あらためて重視する姿勢を打ち出しているが、その背景にはこれらの地域金融機関を取り巻く経営環境の実情があるものと考えられる。

本論では、地域金融機関の市区町村毎の店舗の出店状況から、その地域における金融機関の競争度を計算し、地域金融の競争環境の違いが当該地域における事業所の開業や廃業にどのような影響を与えているかについて実証的に検証した。本論で採用した競争度の指標は、市区町村内で競合する金融機関の数が少なければ少ないほど競争度が低く、反対に多く存在すればするほど競争度が高くなることを意味する。また、事業所のデータは、平成24年と平成26年の「経済センサス」から引用した。

表1:H24センサス 開業と廃業に対する競争度の影響
事業所 従業者
開業率 廃業率 開業率 廃業率
H21 金融機関競争度 - + - +
- + - +
(注)表1は本論の表2-3の結果をまとめたものである。
表2:H26センサス 開業と廃業に対する競争度の影響
事業所 従業者
開業率 廃業率 開業率 廃業率
H23 金融機関競争度 - + - +
- + - +
(注)表2は本論の表2-4の結果をまとめたものである。

表1と表2の正負の符号は、金融機関の各市区町村内の競争度が同地域における事業所の開業率や廃業率に与える影響を示している。本論では、事業所を資本金の規模別に分けた分析も行っているが、結果の傾向に差が無かったので、ここでは各年で1つの表にまとめている。開業率の符号が「-」であるのは、多数の金融機関が店舗を展開している競争度の高い地域では開業率が低く、反対に独占や寡占に近い、つまり競争度の低い地域では開業率が高いことを示している。これに対し、廃業率の符号が「+」であるのは、競争度の高い地域で廃業率が高く、競争度の低い地域で廃業率が低いことを示している。表1と表2にある通り、いずれの分析対象期間とも、整合的な結果となることが確かめられた。

これらの本論で明らかにされた分析結果は、多数の金融機関が集まり競争度の高い都心部よりも、事業所の減少の程度が大きい地方部ほど、貸出先の確保や地域との密接な関係を構築することで、地域金融機関は開業促進や廃業抑制に取り組んでいる可能性を示唆している。競争度の低い地方部ほど、リレーションシップバンキングの効果が発揮されていると見ることもできる。同時に、地方部における地域金融機関の存在意義を示しているともいえる。つまり、近年になり増えている本店所在地から大きく離れた地域への越境的な店舗展開や地方部における既存店舗の統廃合は、事業所の閉鎖を通じて雇用の減少に結び付いている可能性を否定できない。当然ながら、店舗規制の自由化が実現して既に久しく、収益機会を求めて店舗戦略を見直す地域金融機関の経営姿勢は、決して一方的に批判されるべきものではない。しかし、疲弊する地域において地元の金融機関として何をなすべきかについて、本論で明らかにされた内容は、一考を投げかけている。