ノンテクニカルサマリー

資本注入が地域銀行の貸出行動に与える影響

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「地方創生に向けて地域金融に期待される役割-地域経済での雇用の質向上に貢献するための金融を目指して-」プロジェクト

地方創生のためには地域銀行(地方銀行・第二地方銀行)の資金供給機能が有効に働く必要がある。その意味で、地域銀行を支え、資金供給機能を発揮させるべく実施された政府による資本注入政策は重要な意味を持つことになる。資本注入を受けた銀行は、貸し出しを増加させることを期待されているが、その一方で収益性や健全性も回復させなければならない。地域銀行が、将来性のある借り手に対して、担保になる不動産などを保有していない、ということで融資を断れば、新規産業が生まれず、地域経済が停滞してしまう。このような問題意識により、本稿では、金融機能安定化法(1998)、早期健全化法(1999)、金融機能強化法(2004)による資本注入政策が地域銀行の貸出行動(総貸出や中小企業向け貸出、担保・保証付貸出など)に与えた影響を考察した。

表1:分析結果
総貸出残高変化率 中小企業向け貸出残高変化率 担保・保証付貸出比率
公的資金
ダミー
0.757**
[0.362]
0.974***
[0.335]
-2.308**
[0.996]
公的資金初年度
ダミー
1.567**
[0.679]
1.916***
[0.577]
-1.801
[1.469]
公的資金2年目
以降ダミー
0.629
[0.386]
1.248***
[0.376]
-2.403**
[1.033]
旧安定化法
ダミー
-0.101
[0.690]
1.798**
[0.700]
-4.205**
[1.755]
早期健全化法
ダミー
0.868
[0.638]
1.195*
[0.640]
-0.939
[1.348]
金融機能強化法
ダミー
0.673
[0.501]
1.307***
[0.451]
-3.074**
[1.502]
括弧内は標準誤差。***、**、*は、それぞれ1%水準、5%水準、10%水準で有意であることを示している。

表1は分析の結果である。ダミー変数を用いているので、括弧([ ])の付いていない数値は資本注入行と非注入行の差を示している。資本注入行の総貸出残高変化率は非注入行を0.757%上回っており、中小企業向け貸出残高変化率は0.974%上回っている。これらの値に資本注入行の貸出残高の平均値を掛け合わせると、資本注入による総貸出と中小企業向け貸出の増加分は、それぞれ135億円と138億円と試算される。注入額の平均値は約385億円なので、注入された公的資金の約35%が貸し出しに使われていることになる。6割以上の資金が銀行内に残っていることから、地域銀行が資金を効率的に利用していないという評価もできるが、行内に残った資金で多額の不良債権を処理し、健全性や収益性が回復すれば、既存の借り手への貸し出しも維持できる。また、資本注入行の担保・保証付貸出比率は非注入行よりも2.3%低下している。資本注入を受けた銀行は貸し出し(特に、中小企業向け貸出)を増加させ、担保や保証の利用を減らしていることから、日本の資本注入政策は効果的であったといえる。

資本注入による自己資本の増強はその年度だけであり、2年目以降は公的資金を注入されないので、貸し出しの増加は初年度だけとなり、2年目以降になると、貸し出しが減少する可能性もある。そこで、初年度と2年目以降の貸出残高の変化も検証した。総貸出残高変化率の初年度の上昇分は1.6%であるが、2年目以降はゼロである。しかしながら、中小企業向け貸出残高変化率の初年度の上昇分は約2%であり、2年目以降も1.2%である。資本注入政策の貸出増加の効果は、中小企業に対しては、2年目以降も存在している。担保・保証付貸出比率は初年度には低下しないが、2年目以降に非注入行よりも2.4%低下する。従って、資本注入の貸出増加の効果は初年度から生じるが、担保や保証の利用を減らす効果は2年目以降に生じているといえる。

金融機能安定化法(旧安定化法)と早期健全化法、金融機能強化法それぞれの効果も検証した。どの法律にも中小企業向け貸出を増加させる効果はあるが、早期健全化法には、担保や保証の利用を減らす効果がなかった。また、金融機能強化法の震災特例による資本注入について分析したところ、担保や保証を利用せずに中小企業向け貸出を増加させており、金融機能強化法の震災特例は、被災地の復興を金融面から強く支えているといえる。

表2:分析結果(経済成長率の低い都道府県)
総貸出残高変化率 中小企業向け貸出残高変化率 担保・保証付貸出比率 保証付貸出比率
公的資金
ダミー
1.712**
[0.743]
1.238**
[0.589]
1.069
[3.502]
2.061
[1.385]
早期健全化法
ダミー
1.940***
[0.613]
3.156***
[0.486]
5.515
[5.452]
-1.297
[1.040]
金融機能強化法
ダミー
1.941**
[0.811]
2.036***
[0.711]
2.211
[1.683]
4.148***
[0.980]
括弧内は標準誤差。***、**、*は、それぞれ1%水準、5%水準、10%水準で有意であることを示している。

表2は、2002年度から2013年度の県内総生産成長率の平均値の32位から47位の都道府県に本店がある地域銀行を取り出して分析した結果である。これらの都道府県の県内総生産成長率の平均値は-0.55%から-1.74%であり、このサンプルの地域銀行は経済が衰退している地域で営業している。これらの地域では、資本注入行の総貸出残高変化率は1.7%上昇し、中小企業向け貸出残高変化率は1.2%(特に早期健全化法による資本注入行は3.2%)上昇している。しかしながら、金融機能強化法による資本注入行の保証付貸出比率は非注入行を4%以上上回っており、保証の利用は減っていない。経済が衰退している都道府県では、資本注入行は貸し出しや中小企業向け貸出を増加させているが、保証や担保の利用を減らせていないという課題が残る。

経済が衰退している都道府県においてこそ、地域銀行が担保や保証ではなく将来性に応じて貸し出しを行い、新規産業の創出に貢献することが求められる。そのためには、経済が衰退している地域での担保や保証の利用を引き下げることができるような制度設計が必要である。