ノンテクニカルサマリー

地域銀行の店舗ネットワークと経営パフォーマンス

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「地方創生に向けて地域金融に期待される役割-地域経済での雇用の質向上に貢献するための金融を目指して-」プロジェクト

地域密着型金融行政の下において、地域経済を活性化させる上で、地域金融機関に期待される役割はますます高まっている。しかし、一方で、人口減少や超低金利政策の影響により、地域経済の支柱である地域金融機関を取り巻く経営環境は厳しさを増している。こうした環境の下で、金融機関は、自らの経営パフォーマンスを向上させるべく、さまざまな策を講じる必要性に迫られているが、その中でも、最も重要なものの1つとして店舗政策が挙げられよう。金融広報中央委員会が家計を対象として実施したアンケート調査や金融庁が小規模企業を対象として実施したアンケート調査においても、金融機関の選択に際して、店舗への近さが重視されていることが示されている。つまり、金融機関が経営パフォーマンスを向上させ得る有力な手段の1つとして、店舗を増設することにより、より多くの顧客がアクセスしやすい環境を作っていくことが挙げられるのである。

こうした状況を受けてか、インターネットを通じて種々の財・サービスを販売する手法が普及する昨今にあっても、種々のコストがかさむ店舗を大きく削減するという動きはいささかも見出せず、金融機関が店舗政策に力を入れる傾向に変化はない。しかし、こうした店舗政策が、必ずしも地域経済や銀行経営にプラスの効果をもたらしているとは限らない。もし、銀行が店舗増設に力を入れ、新規顧客の開拓に精を出すという行動を過度に強めてしまうと、既存の取引企業に関する情報生産が疎かになるとともに、資金面や経営面でのサポートが手薄になる恐れがある。また、店舗の新設や維持のために、銀行は莫大なコストを負担することとなるため、店舗の新設によって獲得した顧客から得られる収益が、コストに見合ったものでなければ、却って自らの経営を圧迫しかねない。

そこで、本稿では、地域銀行が店舗網の拡大や巨大な店舗ネットワークの維持を通じて顧客を大きく増やそうとする戦略が、自行の経営にとって望ましいものであるかを検証した。まず、金融サービスの提供における店舗の効果について分析したところ、店舗数の多い地域銀行ほど、貸出金および中小企業貸出金が大きいという結果が得られた。つまり、店舗を多く設置する戦略は、より多くの顧客と接することを可能にすることを通じて、銀行全体の貸出額を増大させる効果を持っていることとなる。

一方、総合的な利益水準を表すROAとROEに対する店舗の効果について分析したところ、店舗数が、それらにマイナスの効果を及ぼしているという結果が得られた。つまり、コスト・パフォーマンスという側面から評価すると、度を越した店舗ネットワークの拡張(および、その維持)は、地域銀行にむしろマイナスの影響を及ぼす恐れがあるのである。さらに、地域銀行が利益を向上させる上で最も望ましい店舗数の水準は、50〜99である可能性も示されている。

以上からすると、地域の市場規模が縮小していく昨今にあっては、地域銀行は、新規の融資先を増やすべく、ただやみくもに店舗を増設するのではなく、その出店が自行のパフォーマンスにプラスに働くかを慎重に検討すべきだと思われる。度を越えた店舗ネットワークを有している地域銀行にとっての店舗リストラについても然りである。

地域密着型金融の実践が地域金融機関に求められるなか、そうした十分な検討に基づいて築き上げた店舗ネットワークの範囲内で、新規顧客の開拓や既存顧客の資金面、経営面におけるサポートに全力を尽くすことが、地域銀行自身や地域経済に望ましい効果をもたらすものと考える。

図1:1銀行当たりの店舗数の推移
図1:1銀行当たりの店舗数の推移