執筆者 | 田中 隆一 (東京大学)/石崎 一水 (津島高等学校) |
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研究プロジェクト | 日本の労働市場の転換―全員参加型の労働市場を目指して― |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「日本の労働市場の転換―全員参加型の労働市場を目指して」プロジェクト
教員の教え方は児童の学業成績に影響を与えるのか。本研究は、教員の教え方の1つとして、現行の教育指導要領で重点的課題として扱われている言語活動の例を用いて、言語活動の充実度と児童の学業成績の関係を実証的に明らかにした。
言語活動の充実
言語活動とは、国語授業はもとより、他の教科や学校の教育活動全体で児童生徒の言語活用能力を高める取組一般を指す。たとえば、与えられた課題について調べ、他の児童との話し合いを通じて自らの考えを明らかにし、それを発表することで言語活用能力を高めさせる活動は言語活動と考えられ、このような活動は教科を問わず実施可能である。現行の学習指導要領では、言語活動の充実が改善の視点の重要事項とされ、各学校では、学校の教育活動全般を通して言語活動の充実に取り組んでいる。
学業成績への影響
言語活動の充実度は、全国学力・学習状況調査の小学生児童質問紙の回答からうかがい知ることができる。平成26年度および27年度の全国学力・学習状況調査の児童質問紙には、5年生までに受けた授業についての質問のうち、「授業では、自分の考えを発表する機会が与えられていたと思う」「授業では、学級の友達との間で話し合う活動をよく行っていたと思う」「授業のはじめに目標(めあて・ねらい)が示されていたと思う」「授業の最後に学習内容を振り返る活動をよく行っていたと思う」という質問が含まれている。これらの質問に対して、肯定的に回答した児童は言語活動の充実した授業を受けていたと考えられる。本研究では、ある自治体の平成26年および平成27年に実施された全国学力・学習状況調査の小学6年生の児童個票データを用いて、これらの言語活動の充実度と、偏差値化された国語と算数の正答率との統計的関係を分析した。
(2) 国語A |
(4) 国語A |
(6) 国語B |
(8) 国語B |
(10) 算数A |
(12) 算数A |
(14) 算数B |
(16) 算数B |
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言語活動 | 0.6849*** (0.0564) |
0.3015 (0.3635) |
0.7058*** (0.0626) |
0.6964* (0.3868) |
0.6524*** (0.0661) |
2.0146*** (0.4184) |
0.7154*** (0.0651) |
1.6676*** (0.3207) |
学校固定効果 | Yes | Yes | Yes | Yes | Yes | Yes | Yes | Yes |
観測数 | 8511 | 8511 | 8511 | 8511 | 8511 | 8511 | 8511 | 8511 |
r2 | 0.1369 | 0.1081 | 0.1287 | 0.1082 | 0.1134 | 0.0181 | 0.1118 | 0.0546 |
r2_a | 0.1339 | 0.1021 | 0.1230 | 0.1022 | 0.1076 | 0.0115 | 0.1059 | 0.0482 |
Hansen's J stat (p-value) | 0.4260 | 0.0786 | 0.6057 | 0.3641 | ||||
Underidentification Test (p-value) | 0.0000 | 0.0000 | 0.0000 | 0.0000 |
これらの4つの質問の回答を集計して言語活動充実度の指標を作り、それぞれの教科のテストスコアを回帰したところ、言語活動の充実度と各教科のテストスコアの間には正の統計的に有為な関係がみられた(表の(2)、(6)、(10)、(14))。また、学校の地域的な要因を考慮した分析、および学力の高い児童ほど言語活動を意識的に受け入れているという逆の因果関係を考慮した分析においても、国語Aを除く(表の(4))全ての教科で正の関係が観測された(表の(8)、(12)、(16))。これは、言語活動の充実が児童の学力の向上に対して効果を持つことを示唆している。
4つの言語活動それぞれの効果を見るために、4つの言語活動を集計せずに用いたさらなる分析も行った。分析の結果、授業のはじめに目標を明示する活動は全ての教科において統計的に意味のある正の影響を持つことがわかった。また授業で考えを発表する機会を与えるという活動は、算数のテストスコアに正の影響を持つことがわかった。
これらの結果は、教員の教え方が児童の学力に対して無視できない影響を与えることを示唆しており、教員の指導方法の改善や指導力の向上は児童の学力向上に対して重要であることを意味している。学力向上において効果的な指導上の取り組みを明らかにし、その指導方法の定着を通じて教員の指導力向上をはかる政策的対応重要であると思われる。