ノンテクニカルサマリー

石川県加賀市の人口減少の要因分析

執筆者 岩本 晃一 (上席研究員)
研究プロジェクト IoTによる生産性革命
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「IoTによる生産性革命」プロジェクト

石川県加賀市は、2014年5月に民間研究機関「日本創成会議」の「人口減少問題検討分科会(座長:増田寛也元総務相)」報告書のなかで、石川県で唯一の「消滅可能性都市」とされた。

本稿は、加賀市をモデルケースとして筆者の研究テーマの1つである「IoTによる地方創生」を実行するに当たり、まず、加賀市において進行している人口減少の現状を正確に把握し、人口減少の要因を分析するものである。

地方創生は、何でもやればよいというものではない。風邪をひいている患者に腹痛の薬を処方しても効果はない。加賀市に対して薬を処方し、治療を施すに当たって、まず、加賀市が発症している人口減少病の原因を突き止めることから開始する。地方創生は、「エビデンスに基づく政策」が最も求められる分野である。そうしなければ旧来通りの単なるバラマキになってしまう。2016年2月2日、石川県は2015年の国勢調査速報を発表した。2015年10月1日時点の県内人口は、2010年の調査と比べ、-1万5445人(-1.32%)の115万4343人となった。減少が最も多かったのは、加賀市の-4652人であり、石川県全体の総減少数のうち、30.2%を占めるほどの大幅な減少となった。加賀市の過去5年間の年平均減少率は-6.47%と大きな減少率である。

2015年6〜7月、加賀市に在住する16歳〜18歳の作為抽出男女300人を対象に郵送によるアンケート調査を行った(回収率;34%)。加賀市に住む高校生の地元に対する意識を調査したものである。「あなたは将来も、加賀市に住みたいと思いますか」との問いに対し、「できれば、ずっと住み続けたい」「一度は市外へ出たいが、いずれは加賀市に戻ってきたい」で53%の高校生が加賀市に住み続けたいと答えている。一方、「加賀市の外へ出たい」と答える高校生はわずか25%しかいない。加賀市が他の地域に対して自慢できるものが「ある」と回答した高校生は60%以上に上り、「ない」という回答はわずか10%程度しかない。

若者は、不本意ながら生活のために加賀市を出て行く。そして、加賀市の外で就職し、結婚、住居など生活の基盤を固めるにしたがって、次第に加賀市に帰ることができなくなる。地元にどっぷりと安住した大人たちが若者を冷たく扱っているために若者は加賀市に愛想を尽かし、後ろ髪を引かれる思いで、外へ出て行くという姿が想像される。

図:高校生の意識調査「あなたは将来も、加賀市に住みたいと思いますか。」
図:高校生の意識調査「あなたは将来も、加賀市に住みたいと思いますか。」

2016年3月、加賀市を出て行った若者に対し、どのような環境が整えば加賀市に戻ってきてくれるか、を問うアンケート調査を実施した。加賀市へのUターンが人生の選択肢にあるか(有効回答数;48件)との問いに対し、回答者のうち50%の若者が、条件さえ整えば加賀市に戻っても良いと回答している。加賀市に求めるUターンのための条件(複数回答可で回答数;212件)は、「満足できる就職先がある」が最も多く37件で17.5%だった。本調査により、若者を冷たく扱ってきたことが若者流出の最大原因であったことがわかる。

本稿では、加賀市の人口を増やすための対策として、若者を手厚く扱うことに力点を置くべきとしている。より具体的には、(1)最も賃金が高く雇用が安定している就職希望の高い製造業を振興し、雇用者数を増やす。その目標は、生産性の伸び以上の割合で売上高を増やす。(2)女性にとって最も不満の大きい楽しめる商店街を創出する。(3)交通が不便との指摘に対応して交通の利便性を高める。(4)台湾と関東からの観光客をターゲットとした観光振興を行う。を提言している。