ノンテクニカルサマリー

自治体の雇用削減と公的サービス供給体制の変化

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011〜2015年度)
「官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究」プロジェクト

戦後日本は、国際的にみて人口当たりの公務員数が極端に少ない「市民を雇わない国家」であるとの研究 がある。この長期的な行政的特質は、バブル経済崩壊後、特に地方公務員数(全公務員の4分の3)に関して顕著な進展を見せている。たとえば、平成6年(1994年)から平成27年(2015年)までの約20年間で、地方公務員総数および人口1000人当たり地方公務員数は、それぞれ328万2000人、26.2人から273万8000人、21.6人と、実数で54万4000人の減員、人口1000人当たりの公務員数の比率で17.7%もの減少を見せている。人口変動が平成20年(2008年)をピークに減少に転じているとはいえ、この期間中、総人口が平成6年(1994年)人口を下回った時期はなく、他方、高齢化の進行により行政需要はむしろ増大していると考えられるにもかかわらず、地方公務員数はこのように持続的かつ大規模に減少してきた。

図:地方公共団体の総職員数の推移(平成6年〜平成27年)
図:地方公共団体の総職員数の推移(平成6年〜平成27年)
出典:総務省「平成27年地方公共団体定員管理調査結果のポイント」

以上の行政現象の政策的な含意は多義的だが、地方創生の観点からは、基礎自治体(市町村)における地方公務員数減少が人口減少地域を中心とした公的サービス供給体制や地域雇用の状況にどのような変化をもたらしているのかの検証が重要である。

本稿では、近年の地方公務員数の急激な減少が、地域における公的サービス供給体制のあり方や地域雇用、サードセクターの経営環境などにどのような影響を与えているのかを実証的に検証した。特に地方創生の観点から、どのような自治体・職種で雇用削減が生じ、それが事務委託・補助などを通じて地域のサードセクター等との協働などに機能的に吸収されているのかを分析した。

主な分析結果は、次のとおりである。
(1) 直近の5年間でみると、調理員などの技能労務関係職員の減員を中心に一般市区町村での雇用削減が大きく、地域経済や自治体財政が窮迫した市区町村、行革の推進体力がある市区町村で雇用削減率が大きくなっている。
(2) 市区町村の雇用増減率は、個人事業所・サードセクターなど会社以外の事業所での雇用増減率と有意な正の相関が見られる。また、市区町村による技能労務関係職員の雇用は失業対策として機能していることが窺われる。
(3) 市区町村財政において雇用削減による「人件費」の節減額は「補助交付金」や「賃金」の増額に振り替わる一方で、「委託費」の増額にはつながらない。
(4) 社会福祉法人の財務で、政府行政セクターからの事業委託収入は所在市区町村の委託費の増減と有意な正の相関を示すが、そのことはサードセクターの有給職員数の増減とは有意に結びついていない。

以上からは、地方再生に対して次のような政策的含意が考えられる。自治体雇用削減による人件費の節減分は、公的サービスの供給品質の確保が期待できる事務委託ではなく、臨時職員への振り替えによる公共サービスの「低廉化」や、関係団体への補助金増額による半官半民(協働)化に向かっていることが窺われるなど、新たな地域における公的サービス供給体制の創造は必ずしも円滑にすすんでいるとはいえない。特に、超高齢社会の公的サービス供給を担う社会福祉法人は、所在市町村からの事務委託と密接な関連を有しており、改正介護保険法の運用を含め、今後、市町村とサードセクター間の効果的な協働体制づくりが求められる。こうした中で、たとえば平成27年(2015年)12月に大阪府・大阪市設置の副首都創生本部で大阪府特別顧問の猪瀬直樹元東京都知事から提唱された「公益庁構想」は、非営利法人を統合して国の省庁による縦割から一元的な所管省庁である「公益庁」を設置し、自治体主体で地域のサードセクターとの協働関係の構築をすすめる構想であり、地方分権的な発想のもとで地域における自治体とサードセクターの効果的な協働体制づくりを形成する有効な政策的提言であろう。今後、これらを含めた議論の深化が望まれる。