ノンテクニカルサマリー

政府への財政的依存が市民社会のアドボカシーに与える影響 ―政府の自律性と逆U字型関係に着目した新しい理論枠組み―

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011〜2015年度)
「官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究」プロジェクト

本研究は、財団・社団、社会福祉法人、医療法人、学校法人、特定非営利活動法人、協同組合などの多種多様な市民社会組織が、補助金収入や委託事業収入といった政府からの公的資金収入に財政面で依存することによって、アドボカシー(政策提言、唱導)活動にどのような影響が出ているのかを日本の事例を元に調査研究したものである。

既存の研究では、「政府への財政的依存がアドボカシーに悪影響を与える」とする「悪影響」説と、むしろ逆に「好影響を与える」とする「好影響」説が併存する形で存在しており、議論が収束していない。

その状況を打破するべく、本研究が着目したのが、「市民社会組織に対する政府の自律性の程度」と「政府への財政的依存がアドボカシーに与える非線形的影響」という2点である。つまり、1)政府の自律性の高低によって政府への財政的依存がアドボカシーに与える影響の方向性は異なること(図1)、2)政府への財政的依存は、ある一定レベルまではアドボカシーに好影響を与えるが、一定レベルを超えると逆にアドボカシーに悪影響を与えるようになる、という逆U字型の影響をアドボカシーに与えること(図2)、という2つの点が本研究の検証により明らかとなる。

この知見から導かれる政策的含意としては、市民社会組織の政府への財政的依存が過度に高くなりすぎないようにするための政策的配慮が必要である点が挙げられる。政府が補助金・助成金、委託事業、指定管理者制度、バウチャー制度などの形で提供する公的資金は、一定の範囲内であれば市民社会のアドボカシーを促進する効果を持つが、過剰になりすぎると逆にアドボカシーを阻害してしまう効果を持つ。市民社会組織が過度に政府に依存・従属することなく、多様な収入源を確保して自律的に組織運営やアドボカシーをしていけるようにするために、一般市民や企業からの寄付をより一層集めやすくするための税制改正、あるいは民間財団の発達を促すための遺贈寄付制度の推進や休眠口座の活用などが求められる。

図1:政府の自律性と理論の妥当性の関係
図1:政府の自律性と理論の妥当性の関係
図2:政府への財政的依存度とアドボカシーの関係
図2:政府への財政的依存度とアドボカシーの関係