執筆者 | 渡部 俊也 (ファカルティフェロー)/平井 祐理 (東京大学政策ビジョン研究センター) |
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研究プロジェクト | 日本の製造業におけるノウハウ資産の把握と技術流出のインパクトに関する実証分析研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
技術とイノベーションプログラム (第三期:2011〜2015年度)
「日本の製造業におけるノウハウ資産の把握と技術流出のインパクトに関する実証分析研究」プロジェクト
問題意識
企業の競争力の源泉の1つとして営業秘密の重要性が高まっている。特に製造業においては、海外への大規模な営業秘密流出の実態が次々と最近明らかになったことにより、営業秘密の流出が製造業企業の競争力を大きく損ねているのではないかと指摘されるようになった。しかし技術ノウハウの企業の保有状況と流出の実態に関しては定量的なデータが乏しく、実態が必ずしもよく分かっていない。本研究では、日本の製造業企業がどのような技術ノウハウを、どの程度保有し、またどのような管理を行っているのか、そしてその営業秘密の流出の実態と、流出を促している要因について明らかにすることを目的として、質問票調査を行ったものである。
結果の概要
平成24年の特許出願件数上位5000社を対象として質問票調査を行った。その結果770社の有効サンプルを得ることができた(有効回収率16.0%)。得られたデータの分析によって、日本の技術ノウハウが、特許よりもやや少ないものの、概ね同程度の量的保有が確認できたことに加え、かつ近年形式知化された技術ノウハウは増加傾向にあると推定されること、小規模企業では技術ノウハウの活用頻度が高く、また特許と補完関係のある比率も高いことなどが明らかとなった。技術ノウハウ流出との関係では、組織の高いレベルの営業秘密管理は技術ノウハウの流出を防止する効果として認められる。一方、技術流出の件数に対しては、技術流出の有無をチェックする活動である検知活動に対して、上に凸の関係が有意に認められた。この結果から、検知活動が十分行われていない場合、流出が起きていても気がついていないことが強く示唆されるとともに、検知活動そのものに流出の被害件数を抑止する効果があることが示唆された。
政策的含意
企業が取り組むべき営業秘密の管理に関しては、平成28年2月に秘密情報の保護ハンドブックが経済産業省によってまとめられ、発表されている。このハンドブックで示されている種々の営業秘密の管理は、本調査においても流出防止効果を有すると考えられる。しかし一方、流出を検知する活動が流出件数に対して上に凸の関係になったことで明らかなように、実際に企業が認識できている流出はごく一部であり、この調査においても流出があったとしている事案は氷山の一角である。その多くは企業によって認知されることなく流出が進んでいるものと思われる。まずは重要技術の流出の兆候や流出の事実があれば、それが明らかになるような検知活動とそれを支える体制が必要で、そのような体制と活動が、技術ノウハウの流出被害の件数を削減する効果も期待できることを強調したい。
このような検知活動は、秘密情報の保護ハンドブックにおいては、第6章において「漏えいの兆候の把握及び疑いの確認方法」として示されている活動に相当する。このことは、さまざまな管理活動を実施するには投資が必要で、その投資の効果を検証するためにも、営業秘密流出に対する検知体制の整備が重要であるという含意をも示しているものと思われる。