執筆者 | 武智 一貴 (法政大学) |
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研究プロジェクト | 貿易費用の分析 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「貿易費用の分析」プロジェクト
本研究は、ゼロ取引の観測値が顕著な日次取引データを用いて、貿易コストの測定を行ったものである。日次取引は、日々のさまざまな経済・社会環境の変動に影響を受けるため、取引パターンが大きく変化し、取引が行われない日も多い。このような変動の大きいデータは、各サンプルごとに特徴が異なる不均一分散(heteroskedasticiy)の特性をもつ傾向にある。したがって、不均一分散を考慮した推定が必要とされる。特に本研究で用いるグラビティモデルは通常誤差項の対数を用いるが、このことが推定値のバイアスに影響することが知られており、対数をとらない推定方法を用いる必要がある。また、取引が行われないゼロ取引についても、対数をとる必要がない方法により分析を行うことが望ましい。そこで本研究ではポワソン疑似最尤法を用いて分析を行った。
日本における野菜の卸売市場の日次取引データを用いて、都道府県間の貿易コストの影響を実証的に明らかにした。表は推定結果である。OLSは最小自乗法、ETはEaton-Tamuraトービット、EKはEaton-Kortumトービット、EKSはEaton-Kortum-Sotelo法、そしてPPMLはポワソン擬似最尤法による推定である。表に示されているように、先行研究と同様の貿易コストの存在が明らかにされ、通常の最小二乗法ではバイアスが生じ、ポワソン疑似最尤法を用いる必要がある点も示唆される結果となった。また、貿易コストが距離に関して非線形の特性を持つことも明らかとなり、輸送の固定費用の存在が確認された。推定結果から、貿易コストが供給側か需要側かどちらにより負担されているかを測定することができ、本研究では需要側の負担が大きい点が明らかとなった。これは、主要産地が地理的に大都市市場から離れており、そういった産地内での需要額と供給額の差が大きいためである。地理的な条件から生じる貿易コストと地域内の需給インバランスによる価格面の不利から、需要側が高い貿易コストに直面することになっていると考えられる。
本研究から、貿易コストの存在が確認され地域間取引に影響を与えていることが明らかになったことから、より一層の輸送インフラの整備による効率化が必要とされていることが示唆される。また、貿易コストの需要側の負担に関しては、卸売市場側のコストの大きさが反映されていると考えられるため、農林水産省による卸売市場整備基本方針や卸売市場法の改正の目的の1つである卸売市場の効率化の促進が必要とされている点を確認したといえる。
OLS | トービット | ET | EK | EKS | PPML | PPML | PPML | |
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距離(対数) | -0.622 | -5.896 | -1.141 | -1.701 | -1.501 | -1.225 | -4.277 | |
距離(対数)の2乗 | 0.345 | |||||||
近距離 | -0.929 | |||||||
長距離 | -0.749 | |||||||
対数尤度/R2 | 0.24 | -38118.1 | -152534 | -28557.1 | -119186 | -26763.4 | -25899.3 | -25659.2 |
サンプル数 | 198129 | 198129 | 198129 | 198129 | 198129 | 198129 | 198129 | 198129 |