執筆者 | 伊藤 公一朗 (研究員)/ZHANG Shuang (コロラド大学) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
中国、インドを始めとする発展途上国の大気汚染は非常に深刻で、健康被害や経済損失を生み出していることが近年の研究で明らかになってきています。しかし、各国の政府がどれだけ厳しい環境規制をしくべきかについては、以上にあげた環境被害の情報だけでなく、住民がどれだけ環境の改善を望んでいるのか、という支払意志額を知る必要があります。
本稿では、大気汚染改善へ消費者がどれだけの支払意志額をもっているか、中国における空気洗浄機市場データを使用し、市場行動を利用した顕示選好法により推定を行います。分析のため、私たちは中国の約80都市における小売店レベルの空気洗浄機販売データを集計し、また各都市での大気汚染データも収集しました。
まず私たちが着目したのは、中国政府が行った暖房施設補助金政策の大気汚染への影響です。図1に示した地図のHuai River(淮河)以北はこの政策が1960年代から実施され、以南の地域では実施されませんでした。そのため、図2(a)に示したように、川の以北では大気汚染がより深刻になっていることがデータからわかります。
私たちが示した経済理論の仮説では、一般世帯が実際に汚染されていない空気に対して価値を見いだしているならば、大気汚染(ここではPM10)を除去できるHEPAフィルターという機能が付随した空気洗浄機の売り上げが淮河の南北で異なっているはずだ、という点です。その仮説を検証したのが図2(b)であり、実際にHEPAフィルターが付随した空気洗浄機の売り上げが淮河よりも北の都市で非常に大きくなっていることがわかります。
本稿では、さらに非差別化財市場の需要分析モデルを用いて、空気洗浄機への需要から汚染されていない空気への支払意志額を推定する方法を提示しました。推定結果の概要を示したのが図3と図4です。図3では支払意志額が消費者間でどれだけのばらつきがあるのかというheterogeneityを示しています。また、図4では支払意志額の違いが消費者の所得でどのように説明可能かを示しています。
本稿の最後では、推定された支払い意志額をもとに現在中国で進行中の環境規制改革についての厚生分析を行いました。その結果、現在進行中の暖房省エネ政策については、大きな社会厚生の向上が期待できるという政策インプリケーションを示しました。