ノンテクニカルサマリー

公的研究機関の先進国のイノベーション・システムにおける役割;フラウンホファー、NIST, CSIRO, AIST, およびITRIのケース

執筆者 Patarapong INTARAKUMNERD (政策研究大学院大学)/後藤 晃 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 公的研究機関のナショナル・イノベーションシステムにおける役割
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

技術とイノベーションプログラム (第三期:2011〜2015年度)
「公的研究機関のナショナル・イノベーションシステムにおける役割」プロジェクト

公的研究機関は、国防関連の研究、健康関連の研究などさまざまな理由で設置される。自国の産業を振興することもその1つであり、これは企業の技術的な能力が高い先進国においてさえも同様である。自国の産業の振興を目的とする公的研究機関は、既存の産業が今日直面する問題の解決や新産業の発展につながる次世代の技術の開発に携わっている。さらに、公的研究機関と企業や大学との関係は前にもまして緊密で、オープンで、水平的で、国際的で、長期的なものとなっている。上述した研究に伴うリスクを軽減するために、公的研究機関の媒介者としての役割が重要になってきている。

公的研究機関は国のイノベーション・システムに組み込まれており、公的研究機関が産業を促進する際の重要なポイントや手法は時代とともに進化する。したがって、一般化することは難しいが、本論文で取り上げたドイツ、台湾、日本、オーストラリア、米国の代表的な公的研究機関の経験は、以下の点について適切なバランスを取ることが、公的研究機関を産業の要求にこたえ、かつ研究水準を維持していくうえで重要であることを示している。すなわち、受託研究と自らの発案による長期的な研究のバランス、研究者の流動性と中核となる研究者の確保のバランス、競争的資金や産業からの資金と政府からの機関補助のバランス、である。これらのバランスの在り方はそれぞれの公的研究機関が組み込まれているその国のイノベーション・システムの性質に依存している。産業のバックグラウンドを持つ人を公的研究機関のボードや幹部に入れることは産業のニーズと産業の発展の方向を理解することに役立つ。公的研究機関の研究所が地域の大学や企業の研究所と隣接して立地することはそれらの協同のために決定的に重要である。このことは若い研究者のトレーニングにとっても重要であり、促進されるべきである。

以上のように、他国の研究機関についての分析などを踏まえると、政府省庁は公的研究機関に細かく注文を出すべきではなく、全体的な方向性を示し、新産業や新製品の創出への貢献といった長期的な指標に基づいて評価を行うべきであることが示唆される。

図表:先進国の研究機関
設立年 収入(百万US$) 従業員数 資金源
(政府:産業、競争的資金)
フラウンホファー(ドイツ) 1949 2,476 (FY2012) 22,000 1/3:2/3
CSIRO(オーストラリア) 1916 875 (FY2014) 5,200 60%:40%
産総研(日本) 1948 940 (FY2013) 2,900 75%:25%
NIST(米国) 1901 1,004 (FY2014) 3,000 ほぼ全額政府
ITRI(台湾) 1973 631 (FY2012) 5,800 政府からの競争的資金65%:産業35%