ノンテクニカルサマリー

金融危機時の政府系金融機関の目的関数

執筆者 小倉 義明 (早稲田大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

2007-09年のグローバル金融危機は、我が国においては、輸出関連製造業の急激かつ大幅な売上減少と、コマーシャルペーパーなど債券市場における新規発行の停止という形で波及した。このような危機の長期化に備えるために、2009年1-3月には大企業、中小企業を問わず、手元流動性を積み増すための銀行融資需要が急増した。本研究では、このような危機時における中小企業向け金融において、政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工中金)が果たした資金供給下支え機能を検証した。

中小企業と融資銀行のマッチングデータを用いた回帰分析により、都市銀行や信託銀行などの大手銀行をメインバンクとしている中小企業で、地域金融機関をメインバンクとする企業と比べて、危機時の政府系金融機関依存度が顕著に高まる傾向があることが明らかとなった。政府系金融機関からの融資残高の2009年における増加幅は、メインバンクが大手銀行の場合に、そうでない場合と比べて、約1.2倍となっている(図参照)。

このような現象の原因としては、まず大手銀行がメインバンクである場合、その預金・貸出金シェアが低いことや、メイン変更確率が高いことが象徴するように、大手銀行メインバンクと中小企業の関係が、地域金融機関メインバンクと比べて弱いことが挙げられる。また、債券市場の機能停止を受けて大企業の多くが大手銀行融資に回帰する動きが、大手銀行における中小企業向け融資をクラウドアウトする結果となったことも挙げられる。

恒久的ではなく一時的な業績不振であるにもかかわらず、メインバンクとの関係が弱いために十分な資金調達ができない企業に対して、政策金融は補完的に供給されていたことを本研究は明らかにしている。これを理論モデルに照らして解釈すると、危機時における政策金融は、銀行利益と借り手企業の利益の合計である経済厚生の最大化を図るように運営されていたと評価できる。

ただし、本研究では、政策金融における軽減金利など補助金を確保するための租税コストを埋没費用として扱っている点に注意が必要である。政策金融による上記の経済厚生向上が、この埋没費用と比べて十分に大きいか、との問いに答えるためには、経済厚生向上分そのものの計測が必要である。この点は今後の課題である。

図:各企業の(各金融機関からの借入)÷(総資産)(%)の前年比変化幅(金融機関業態別の平均)
図:各企業の(各金融機関からの借入)÷(総資産)(%)の前年比変化幅(金融機関業態別の平均)
(注)年×企業固定効果モデルによる推定値。各年のいずれかの月に会計期末を迎える決算期の末残に基づいた推定値を表示。