執筆者 | 鈴木 將文 (名古屋大学) |
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研究プロジェクト | 標準と知財の企業戦略と政策の研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
技術とイノベーションプログラム (第三期:2011~2015年度)
「標準と知財の企業戦略と政策の研究」プロジェクト
本論文は、FRAND宣言を伴う標準必須特許の権利行使に関し、どのような法的問題があり、また、どのような解釈が提示されているかを、国際比較の観点も踏まえ、検討したうえで、素材として、我が国のアップル社対サムスン社の事件における知財高裁の判決を採り上げて、これを詳しく分析・検討したものである。
具体的に、要点をまとめれば以下のとおりである。
(1)標準必須特許権に基づく差止請求および損害賠償請求につき、一定の制限を加えることが妥当と解されるところ、その根拠としてFRAND宣言による契約法上の効果や、競争法による規制を挙げる考え方もある。しかし、現時点の我が国の対応としては、知財高裁が採用した権利濫用論に基づく権利行使制限が、もっとも適切なものと考えられる。
(2)一口に権利濫用論といっても、上記事件の東京地裁と知財高裁の判決が示すように、その内容・基準は異なり得る。この点につき、具体的事案の諸事情を総合考慮した東京地裁のアプローチよりも、権利行使の状況を類型化して一般的基準を示した知財高裁のアプローチの方が、予見可能性・法的安定性の点で優れている。
(3)また、権利行使制限の範囲についても、東京地裁は差止請求に加え、損害賠償請求の一切を否定したが、知財高裁のように、FRANDライセンス料相当の損害賠償は原則として認めるのが妥当である。
(4)FRANDライセンス料の算定については、国際的に、知財高裁判決を含め数件の裁判例が現れている。知財高裁の算定法に対しては、低額すぎるとの批判もある。同算定法に関し、一部の数字が公表されていないこともあって評価が難しいが、少なくとも、特に批判が強い累積ロイヤリティの上限(5%)の設定は一応合理性ある方法と思われる。他方、損害額としてのライセンス料と、ライセンス交渉で提示されるべきライセンス料の差異についての考慮がなされていない点は、議論の余地がある。
(5)今後に残された課題としては、willing licenseesの認定基準などの具体化、標準必須特許権が移転した場合の処理、FRANDライセンス料の算定を含む適切な紛争解決手段の確立などが考えられる。
(6)補論として、競争法上の問題に触れる。すなわち、必須標準特許の権利行使に関する競争法上の評価に関し、複数諸国で訴訟や競争当局のガイドラインの策定などの動きが見られ、我が国の公正取引委員会も、2015年7月にガイドラインの案を公表した。しかし、この案については、権利移転の場合についての法的評価が不明確、willing licenseeの認定基準に合理性が欠ける、という問題を指摘できる。