執筆者 | 齋藤 経史 (東京大学)/大橋 弘 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 新しい産業政策に関わる基盤的研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
新しい産業政策 (第三期:2011~2015年度)
「新しい産業政策に関わる基盤的研究」プロジェクト
1970年に開始された稲作の生産調整は、主食用米の供給量を低く抑えることで高い米価を維持してきた。本稿では、農林業センサスの個票データを用いた離散選択モデルに基づくシミュレーション分析を通じて、稲作生産調整が消費者および納税者に与える負担を定量的に明らかにする。
主食用米の生産数量目標は2018年度に廃止されることとされた。他方で、2025年度にむけて小麦・大豆や非主食用米への転作に高い目標が食料・農業・農村基本計画に掲げられており、「減反の廃止」とは言えないとの見方がある。具体的には、田に小麦・大豆、非主食用米を作付けた場合は、その農家に作物の品目と作付面積に応じて交付金(「水田活用の直接支払交付金」)が支給される。
本稿では、稲作生産調整政策の影響を評価するために、2つの仮想的な政策シミュレーションを将来時点である2019年について行った。シミュレーション(A)は、大豆・小麦への転作に対する交付金を廃止する政策シミュレーションであり、シミュレーション(B)は非主食用米の生産を2013年度水準に維持したままで、更なる生産増に対する交付金を廃止する政策シミュレーションである。ともに品目別に「水田活用の直接支払交付金」を政策変数とするシミュレーションとなる。
シミュレーション(A)では主食用米の供給量増で均衡米価は約4%低下し、消費者負担が軽減される。この結果、年間で納税者負担が-971億円、消費者負担が-742億円となる。シミュレーション(B)では、現行の交付金単価での交付金総額は-806億円であり、主食用米の均衡米価は15%低下する。これによって納税者負担は-646億円、消費者負担は-2935億円となる。これらのシミュレーション結果から、稲作生産調整政策による潜在的な消費者負担は無視し得ないことが明らかにされるとともに、米価に歪みを与えない政策の重要性が浮き彫りにされた。