ノンテクニカルサマリー

沖縄の自立型経済振興のための財政措置の効果分析:多地域間CGEモデルを用いて

執筆者 沖山 充 (麗澤大学)/池川 真里亜 (筑波大学)/徳永 澄憲 (麗澤大学)
研究プロジェクト 経済グローバル化における持続可能な地域経済の展開
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済グローバル化における持続可能な地域経済の展開」プロジェクト

沖縄が日本に復帰して今年で43年の歳月が経過した。この期間において本土の各県との格差を埋めるべく復帰後、国の主導によって沖縄振興施策が実行され、社会資本整備や地域経済の基盤強化が推進されてきた。その中で、沖縄県が平成22年3月に今後の沖縄が進むべき道筋として「沖縄21世紀ビジョン」を策定した。

このビジョンには、2030年を想定した沖縄の将来あるべき姿を描き、その実現に向けて取り組む方向性が示されている。そしてこのビジョンを実現するために平成24年5月沖縄の日本復帰40周年に合わせて平成24年度から平成33年度の10年間における「沖縄21世紀ビジョン基本計画」が決定された。この計画期間中、政府は沖縄振興予算として毎年3000億円台を確保するとしている。同計画はこうした予算に裏付けられることに加えて、これまでの沖縄振興計画と大きく異なっている。それは、平成24年度に抜本的に改正された「沖縄振興特別措置法」に基づき沖縄振興計画の策定主体が国から県に移行し、それに合わせる形で、より自由度の高い「沖縄振興一括交付金」が新設されたからである。

本稿ではこの新設された県が自主的な選択に基づいて実施できる一括交付金制度に着目し、その交付金の経済効果を明らかにすることを目的としている。そして本稿で行ったシミュレーションの与件は、下図に示した沖縄振興一括交付金の中で「真水」である沖縄振興特別推進交付金を参考に設定した。本稿では大きく3つのシミュレーションを実施した。1つは平成26年度沖縄振興一括交付金の経済効果を計測したシミュレーションである。2つ目は平成27年度予算概算要求額をベースに、3つ目は平成27年度予算概算決定額をベースにしたシミュレーションである。

この3つ目のシミュレーションは、平成27年度予算額が概算要求額より減額となり、かつ平成26年度予算額よりも減額になった状況下で、減額になった交付金の配分をどのように見直せば、平成26年度並みの経済効果が得られるのかを提示している。

また、シミュレーションではこの交付金の財源を特定している。それは、関東や中部・近畿などの地域に配分される地方交付税交付金の一部を流用することである。この設定は国家財政の健全化と、都市と地方の地域間経済格差を是正することに加え、沖縄に全国の在日米軍専用施設の約75%が集中し、かつ沖縄が日本の安全保障の負担の大半を担ってきた点を鑑みると、こうした地域間の財政移転はむしろ当然であると思われる。

本稿での3つのシミュレーションから得られた点を踏まえ、来年度以降の向こう6年間の沖縄振興特別振興交付金の使途を大胆に展望する。沖縄県が自由に使える「真水」の交付金が毎年1000億円支給され、過去3年間で振り分けられた交付金の使途がある程度継続されるとみなす。この想定から県庁や市町村の自治体の歳入に組み込まれ、公共サービスなどとして使われる分が300億円、公共投資の原資として使われる分は150億円、そして残りの550億円が沖縄の生産活動部門(産業部門)に補助金として支給される分になる。ここでは、この550億円のうち継続分を除く130億円の使途について提言する。

まず、沖縄に対する1000億円の財政移転が、沖縄の県民所得の増加分として最終的にもたらされる金額はその1.4-1.5倍の1400から1500億円程度になる。つまり、県民1人1人に現金で所得補填をするよりは経済効果がある。また、沖縄の実質県内総生産を2.7%~2.9%引き上げる効果があり、本土よりも高い失業率を3%程度絶えず押し下げる新規雇用創出効果が見込まれる。こうした沖縄振興策は県民所得や地域経済にプラスに働く一方で、その財源を拠出している関東や中部・近畿地域の人々の所得にマイナスの影響を与える。但し、こうした地域でも沖縄の消費と投資の拡大によって沖縄への移出が増加するなど、生産活動のプラス効果を見逃せない。また、1000億円の財政負担でもこの2地域の負担は2/3に止まり、残り1/3は沖縄振興策の経済効果による税収増で賄われる。

さらに、沖縄振興策の経済効果をより高めるために、130億円を製造業への補助金に重点配分をする方が、運賃コストの軽減を狙った運輸業、離島振興や地域資源を活用した農工連携産業、さらに国と沖縄県が最も産業振興に力を入れている観光産業やIT産業よりも効果的である。沖縄では飲食料品以外で移出できる製造業はほとんどなく、むしろ沖縄の内需が拡大すれば、製造業の製品の移入は増加するという産業構造である。それなのに、何故、製造業であるのかについては、石油関連製品などの製造業に生産補助金を支給することでエネルギー・コストが引き下げられるからである。そして、この点から運輸コストの引き下げや観光サービス価格の値下げよりも沖縄の生産活動への波及効果として大きいことが示唆される。こうした島しょ経済の不利性の克服に低価格で安定的なエネルギーを供給することが沖縄振興にとって重要な施策である。しかし、沖縄の自立型経済振興に向けた施策にはならない。

沖縄が自立型経済に転換する施策とは、観光産業・IT産業ではなく、本格的な移輸出型製造業を誘致することを提言したい。確かに、花木、砂糖や泡盛などの農産物や飲食料品がこれまで沖縄の移出に少なからず貢献し、農工連携産業を育成することは離島振興策からも必要である。しかし、それだけでは沖縄を一段高い産業構造に変革することができない。沖縄が本土から離れていることへのネガティブな発想を、台湾、中国華南地域、そして将来の発展が見込めるASEAN諸国に本土よりも近いというポジティブな発想に切り替え、移輸出型製造業を本土から誘致し、その産業の国際競争力を高める施策に補助金を活用することを推奨したい。

具体的には、自動車製造会社の工場を沖縄に誘致することである。そしてその工場用地には米軍施設の跡地利用が最適である。その理由は、基地施設が立地していたことから、整備された敷地と近隣の交通インフラおよび雇用確保などのメリットを最大限に活かせるからである。そして、沖縄で製造された自動車や自動車部品を成長が見込める近隣の海外や本土への移愉出ができれば、沖縄の自立型経済への実現に大きく貢献するであろう。

図:沖縄振興一括交付金の推移
図:沖縄振興一括交付金の推移
(出所)内閣府沖縄担当部局予算資料などから作成