ノンテクニカルサマリー

サードセクターガバナンスと地方創生

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究 (第三期:2011~2015年度)
「官民関係の自由主義的改革とサードセクターの再構築に関する調査研究」プロジェクト

現在、政府がすすめている地方創生に関する政策では、3つの点が注目される。

第1は、過疎地域や人口減少地域などを含めて全国のあらゆる地域での取り組みが求められていることである。第2は、地域をあげての取り組みがいわれている中で、従来から地域づくりなど公益・非営利活動の担い手であるサードセクター(「会社以外の法人」と地縁団体などの法人格なき団体をいう)の役割が特記的に扱われていないことである。第3は、省庁縦割りを排した取り組みが特に強調されていることである。

第1、第2の点について、地方創生の柱の1つである地域雇用を平成24年経済センサスから見ると、「会社以外の法人」の雇用規模は従業者数比率で個人企業を上回り、企業当りの常勤雇用者数で会社企業や個人企業を上回っている。また、雇用の質を見ると、常勤雇用者比率、女性雇用者比率、女性常勤雇用者比率のいずれの指標についても、「会社以外の法人」が、会社企業、個人企業を上回っている。さらに、地域雇用におけるサードセクターの比重は、人口規模の小さな自治体、人口減少の大きな自治体になるほど大きくなっている。過疎地域、人口減少地域などを中心に地方創生において、サードセクターの役割が重要な鍵を握っていることがわかる。

会社企業会社以外の法人個人企業
企業数(a)合計 1,706,352246,4772,175,216
平均 9831421,254
最大値 65,5476,15871,555
最小値 119
従業者数(b)合計 39,997,5767,114,3846,339,151
平均 23,0534,1083,654
最大値 2,294,122192,189219,902
最小値 2114
うち常勤雇用者数(c)合計 34,729,8436,249,8652,989,723
うち女性常勤雇用者数(d)合計 15,290,9784,341,2693,503,206
うち常勤雇用者数女性従業者数(e)合計 13,289,1493,964,0992,012,125
企業数比率aの企業別比率 41.3%6.0%52.7%
従業者比率bの企業別比率 74.8%13.3%11.9%
常勤雇用者比率c/b 86.8%87.8%47.2%
女性雇用者比率d/b 38.2%61.0%55.3%
女性常勤雇用者比率e/d 33.2%55.7%31.7%
企業当り従業員数b/a 23.428.92.9
企業当り常勤雇用者数c/a 20.425.41.4

その一方で、第3の点に関しては、日本のサードセクター法制は、一般社団法人および一般財団法人に関する法律に基づく社団法人・財団法人のような「一般法制」による法人のほかに、社会福祉法に基づく社会福祉法人、学校教育法に基づく学校法人、医療法に基づく医療法人などの「特別法公益法人」など、「縦割り法制」の法人が併存する法制環境にある。このような特有の法制が、サードセクターが地方創生を担う上で「省庁縦割り」の弊害を生んでいないのかが、本稿の検証課題である。

本稿では、平成26年9月から11月にかけて独立行政法人経済産業研究所が行った「日本におけるサードセクターの経営実態に関する調査」(「RIETI調査」)に基づき、以下の分析を行った。

まず、サードセクターのガバナンスを、「制度(I)」によって規定される政府(国・自治体からの規律付け)、市場(経済取引関係者からの規律付け)、市民(寄付・ボランティアなどの無償参加者からの規律付け)による「規律付け(D)」によって、サードセクターの組織運営者が、執行管理体制、情報公開体制、監査体制などを整備・運営する「コンプライアンス(C)」の水準を高め、地域雇用効果(事業所あたりの雇用数)、政策媒介効果(地域ニーズを政策につなげる役割)、活動拡大効果(団体の本来の活動エリアや事業活動の拡大)などの「パフォーマンス(P)」を向上させる関係としてモデル化した。そして、「一般法制」「縦割り法制」という「制度(I)」の相違が、「規律付け(D)」と「コンプライアンス(C)」にどのように影響するのかを見た。

分析フレーム
図:分析フレーム

「コンプライアンス(C)」と「制度(I)」の相関関係をロジステッィク回帰分析で検証すると、「縦割り法制」では、「制度(I)」が「コンプライアンス(C)」の水準を有意に低下させるという「一般法制」には見られない関係が見られる。これを「ガバナンスの罠」と名付けた。

そこで、「ガバナンスの罠」は、「縦割り法制」のサードセクターにおける「政府による規律付け」が強度であるため、全国画一的・硬直的な「規律付け」が自治体によって行われ、それがサードセクターのコンプライアンスの自律性を低下させているのではないかという仮説のもとに、サードセクターの「制度(I)」ごとに、自治体固有の政策的特性が自治体によるサードセクターへの「規律付け」に影響しているのかをカイ2乗分析によって検証した。その結果からは、「一般法制」のサードセクターの「制度(I)」では、自治体固有の政策的特性が自治体によるサードセクターへの「規律付け」に有意に影響している一方、「縦割り法制」のサードセクターの「制度(I)」では、有意な影響は断片的にしか検証できなかった。つまり、「一般法制」では、自治体とサードセクターの関係は自治体の政策に関連して形成されるのに対し、「縦割り法制」では、自治体とサードセクターの関係は自治体の政策に関係なく全国一律で形成されていると考えられる。

最後に、サードセクターの「コンプライアンス(C)」と地方創生に関係するサードセクターの「パフォーマンス(P)」の関係をロジステッィク回帰分析などによって検証した。コンプライアンスの水準の向上、特に「縦割り法制」で「ガバナンスの罠」が観察される執行管理体制や情報公開体制の整備・運用水準の改善は、地域雇用効果(事業所当り雇用数)、政策媒介効果(地域ニーズを政策につなげる役割)、活動拡大効果(団体本来の活動エリアや事業活動の拡大)を有意に高める関係が見られる。サードセクターの地方創生における役割を高めるため、「縦割り法制」を「一般法制」に転換することなどにより、「ガバナンスの罠」を解消することが有効であるという政策的含意が得られた。