ノンテクニカルサマリー

プロダクト・イノベーションと経済成長 PartⅣ:高齢化社会における需要の変化

執筆者 吉川 洋 (ファカルティフェロー)
安藤 浩一 (中央大学)
研究プロジェクト 日本経済の課題と経済政策Part3-経済主体間の非対称性-
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本経済の課題と経済政策Part3-経済主体間の非対称性-」プロジェクト

人口減少は日本の経済・社会に大きな影響を与える。社会保障・財政の持続可能性、「消える市町村」という言葉で象徴されるような地域の衰退など、深刻な問題はすでに生じている。しかし、日本全体の経済成長については「人口ペシミズム」が強すぎるのではないだろうか。 先進国の経済成長は決して人口だけで決まるものではない。キーとなるのはイノベーションである。イノベーションと言ってもさまざまな種類があるが、とりわけ重要なのが「プロダクト・イノベーション」というのが、本論文のメイン・メッセージである。理由は、既存のモノ・サービスに対する需要は必ず飽和するからである。「需要の飽和」、その結果としてのS字(ロジスティック)成長は、本論文の2節で詳しく論じているように、まさに「法則」の名に値するものである。したがって、先進国の経済成長は、こうした需要の飽和を打ち消すような成長力のある新しいモノやサービスの登場が牽引する。これこそがプロダクト・イノベーションの役割にほかならない。

自動車産業を例にとると、我が国の四輪車の保有台数は2008年度に景気低迷の影響を受けて減少に転じ、4年にわたり減少したが、その後は増加に転じている。ハイブリッド車以外は減少を続けたままであるが、2011年度にハイブリッド車の増加がその他の車種の減少を上回り、以後はハイブリッド車の増加が全体の増加を牽引している。成長が維持された背景に製品の内容に変化があった例であるといえる。

プロダクト・イノベーションの需要創出効果は、必ずしもTFPではとらえることができない。両者は概念的に別のものである。かつては「需要の飽和」を重視したPasinetti (1993, P.37-40)のような学者もいたが、今日ではそうした視点はメインストリームの経済学からはまったく消失している。しかし、日本経済をはじめ現実のマクロ経済の成長と停滞を理解するためには、「需要の飽和」とプロダクト・イノベーションの「需要創出効果」を無視することはできない。

本論文では、ケーススタディとして自動車とスマートフォン、高齢者用福祉用品を取り上げた。いずれも成長の基となっているのは「需要の伸び」である。新しいモノやサービスの中には、介護ロボットのように、市場に任せておくだけでは十分な成長が見込めないものもある。このような分野では、政府による「市場の創出」が重要な成長戦略の1つとなる。

図:新しい需要と経済成長のパターン
図:新しい需要と経済成長のパターン