執筆者 |
滝澤 美帆 (東洋大学) 宮川 大介 (日本大学) |
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研究プロジェクト | 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト
複数のメンバーがチームとして事業を行う際に、どのようなメンバー構成が観察される傾向にあるだろうか。また、こうしたメンバー構成の経済的な意味をどのように評価すべきだろうか。研究チームを構成する研究者個人の属性に注目したHamilton et al. (2003)、Jones (2009)、Bercovitz and Feldman (2011)は、より多様なバックグラウンドを有する研究者を含む研究チームがより高い確率で研究に成功することを発見しているが、短期のパフォーマンスに注目するとメンバーの異質性がチームの運営に当たっての費用を引き上げる要因になるとの指摘もある(Steffens et al. 2012)。すなわち、チームのメンバー構成については、メンバーの異質性に関するこうしたメリットとデメリットとの間のトレードオフを踏まえて決定されていると考えられる。
本稿では、チームのメンバー構成パターンとその経済的な意味について、ベンチャーキャピタル(以下VCと呼ぶ)の複数ラウンドに亘る投資データを用いて分析した。得られた推定結果から、第1に、投資対象企業のスクリーニングを重点的に行う必要があると考えられる初回の投資ラウンドにおいて、経験・資本金規模・人的資本の面で比較的多様なVCが共同で投資を行う傾向にある一方、ラウンドが進むにつれて資本金規模の面で似通ったVCが投資を行う傾向が強まることが分かった。これらの結果は、初回投資ラウンドでは多様なVCとの共同投資で得られる情報や知見の価値が評価されている一方、時間の経過と共に同質なVC間の低い取引コストがより重視されていることを示唆している。
+および-はそれぞれ係数の符号を示す。符号の数(例:+++/++/+)はそれぞ れその係数の推定値が1, 5, 10%有意水準で統計的に有意であることを表す。推計に 当たっては株式会社Japan Venture Research (JVR)の保有するデータベースから構築 したデータセットを用いた。 | ||||
被説明変数 | (1) リードVCの 社齢 | (2) リードVCの 資本金規模 | (3) リードVCの 従業員数 | |
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第一ラウンド | 説明変数 | 係数 | 係数 | 係数 |
メンバーVCの社齢 | + | |||
メンバーVCの資本金規模 | ||||
メンバーVCの従業員数 | ||||
第三ラウンド | 説明変数 | 係数 | 係数 | 係数 |
メンバーVCの社齢 | - | |||
メンバーVCの資本金規模 | +++ | ++ | ++ | |
メンバーVCの従業員数 | -- | |||
年ダミー | 含む | 含む | 含む | |
ベンチャー企業業種ダミー | 含む | 含む | 含む |
それでは、多様なVCの参画はどういった経済的な価値を生み出しているのだろうか。本稿では、投資対象ベンチャー企業のIPO確率と共同投資を行った複数のVCの属性との間の関係を分析し、リードVCとメンバーVCとが資本金規模に関して異なる属性を有している場合に、早期のIPOが達成される傾向が高いことを示した。この結果は、異質なVCの協働を促すことで資本市場の機能を高める効果があることを示唆している。加えて、投資ラウンドが進むにつれて属性の近いVCが共同投資を行う傾向にあるという前述の結果から得られる1つの含意として、多様なVCが協働することでモニタリングやコーチングにより経済的な価値を生み出す余地が相当程度残されているということも示唆している。
特に、投資対象企業のスクリーニングに際してこうした協働体制が有効である可能性があるという結果を踏まえると、投資案件情報の共有やVC間での人的交流を促進するような公的プラットフォームを整備することが1つの政策的取り組みとして期待される。
- 文献
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- Bercovitz, J., Feldman, M. 2011. "The Mechanism of Collaboration in Inventive Teams: Composition, Social Networks, and Geography." Research Policy 40, pp. 81-93.
- Hamilton, B. H., Nickerson, J. A., Owan, H. 2003. "Team Incentives and Worker Heterogeneity: An Empirical Analysis of the Impact of Teams on Productivity and Participation." Journal of Political Economy 111, 465-497.
- Hotchberg, Y., Lindsey, L., Westerfield, M. 2012 "Partner Selection in Co-Investment Networks: Evidence from Venture Capital," Unpublished working paper.
- Jones, B. F. 2009. "The Burden of Knowledge and the Death of the Renaissance Man: Is Innovation Getting Harder?" Review of Economic Studies 76, 283-317.
- Steffens, P. Terjesen, S., Davidsson, P. 2012. "Birds of a Feather Get Lost Together: New Venture Team Composition and Performance." Small Business Economics 39, pp. 727-743.