ノンテクニカルサマリー

不法移民と失業、そして、移民政策に関する空間経済分析

執筆者 宮際 計行 (フロリダ国際大学)/佐藤 泰裕 (大阪大学)
研究プロジェクト 地域の経済成長に関する空間経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「地域の経済成長に関する空間経済分析」プロジェクト

本稿は、不法移民を規制する政策の効果を、複数地域のジョブ・サーチモデルを用いて分析した。各地域(各国)政府が採る政策としては、国境での取り締まりを強化するなどの流入阻止策と、地域内での不法滞在者雇用企業への罰則の強化といった内部政策を考慮した。移住先として複数の地域(国)を想定する場合、その地理的な位置関係を具体的に考える必要がある。ここでは、移住先が2つある場合を念頭に置き、図のように、移住先の二地域が両方とも移住元と国境を接する場合(common border case)と、移住先の一地域のみが移住元と国境を接する場合(single border case)を想定した。前者は、たとえばアメリカのメキシコとの国境沿いの州を、後者は、たとえばヨーロッパの国々を念頭においている。

分析の結果、1つの地域だけしか考えなければ、流入阻止策と内部政策はよく似た効果をもたらすが、複数の地域が存在していると、これらは異なる帰結をもたらすことを示した。具体的には、後者はその決定に歪みが発生しないが、前者は非効率的な水準に決まってしまうことが明らかになった。その理由は、流入阻止策は、移民の移動についての裁定条件に直接影響を及ぼし、その影響が自地域のみではなく他地域も波及するが、内部政策は、裁定条件に間接的にしか影響を及ぼさず、他地域への波及効果が生じないためである。また、流入阻止策の裁定条件への影響のあり方は、移住先と移住元との地理的な位置関係によって異なることも明らかになった。common border caseにおいては、移住先の地域の流入阻止策は、もう1つの移住先の政策と同じ水準にする誘因があるため、複数均衡が生じる。更に、こうした政策は、他地域への正の外部性を生むため、流入阻止策は過少になる傾向がある。一方、single border caseにおいては、移住元と国境を接する地域は、もう1つの地域への効果を無視して政策を決定し、さらに、その政策が正の外部性を生むため、やはり流入阻止策が過少になってしまうのである。

これらの結果は、内部政策については移住先の地域や国の政府が各々独自に政策を決定しても問題は生じないが、流入阻止策についてはそうではなく、関係する諸地域や諸国で協調して意志決定する必要があることを示している。そして、難民の流入が喫緊の課題となっている欧州や、メキシコを中心とした国々からの移民に対する政策に注目が集まるアメリカにおける議論に有益な示唆を与えるものであり、今後日本に同様の問題が生じた場合に参考にできると考えられる。

図