ノンテクニカルサマリー

日本における年金世代の男性の再活用余力について

執筆者 臼井 恵美子 (一橋大学)/清水谷 諭 (コンサルティングフェロー)/小塩 隆士 (一橋大学)
研究プロジェクト 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学」プロジェクト

「くらしと健康の調査 (JSTAR)」を用いて、日本における60歳から74歳までの男性は、年金受給開始後の新しい生活環境において、自分の就労形態をどのように変化させ、やがて引退へと移行しているかを分析した。

分析の対象とする男性を、54歳のときの仕事が雇用者であった人々と、54歳のときは自営業だった人々の2つのグループ分け、その両者を比較分析した(JSTAR調査において、調査対象者の50歳代半ば以前の雇用経歴については、54歳だった時の雇用状況を尋ねることで代表させている)。

下図のように、54歳時に雇用者だった人々の多くは、60歳頃を期に「急速に」フルタイムから退出し、パートタイムや引退へと向かっており、他方、54歳時に自営業だった人々は、60歳頃から「徐々に」フルタイム就業から退出している。

図:54歳のとき雇用者だった男性
図:54歳のとき雇用者だった男性
図:54歳のとき自営業だった男性
図:54歳のとき自営業だった男性

前者の54歳時雇用者は、年金受給開始後、多くは引退へと移っていくが、その中でも働き続ける人々は、「労働時間を長くしたいがそれができない=underemployment」と感じていることが多い。

一方、後者の54歳時自営業の人々は、年金受給を始めても、直ちに引退したり、労働時間(週当たり労働時間、あるいは年間労働週いずれも)を変えることがないが、働き続ける中で、「働きすぎ(労働時間を減らしたいがそれができない)=overemployment」と感じていることが多い。

これらの分析結果から、日本の男性雇用労働者は、年金受給年齢になっても、依然、引き続き活用可能な余裕能力を有していると考えられる。

一方、米国のHealth and Retirement Study (HRS)を用いて、日本と同様の分析をした結果を見ると、米国の男性労働者は、年金受給開始と同時に引退したりパートタイムに移っている。そして、その中でも雇用者として働き続けている人々は、日本とは異なり、「働きすぎ」とも、「もっと働く時間を増やしたい」とも感じておらず、日本に比べると引退後の働く時間に「納得」していることが明らかになった。

この比較分析からみて、日本の男性は年金受給開始後において、「自分が働きたいと感じている時間だけ働くことができていない」が、一方、米国の男性は日本に比べて、「自分の希望に合っただけ働くことができている」と感じていることを示している。すなわち、日本においては、定年制度、年金制度などの諸要因のために、「年金受給開始後の働く時間」について、「働きすぎ、あるいは、もっと働きたい」、いずれにおいても満足ないし納得できていない人々が多い可能性がある。この原因を特定するため今後の更なる研究が必要であると考えられるが、特に、50歳代において雇用者だった日本人男性に、60歳代以降も引き続きフルタイムで働く機会を提供する、あるいは弾力的な雇用条件で働く機会を提供することは、彼らの潜在的労働力をより活用することになると考えられる。