ノンテクニカルサマリー

東日本大震災による高齢被災者の生活の変化について

執筆者 菅野 早紀 (神戸大学)
研究プロジェクト 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学」プロジェクト

本研究の概要

2011年3月11日に発生した東日本大震災は、東北地方に甚大なる被害をもたらした。本稿では、50歳以上の中高齢者を対象としたパネルデータ「くらしと健康の調査(JSTAR)」を用いて、震災という外生的なショックが、高齢の被災者にどのように経済的・心理的影響を与えたかを推定した。

「くらしと健康の調査(JSTAR)」は、2007年に5都市を対象として始まり、震災前の2009年と震災の6カ月後の2011年に、それぞれ7都市、10都市で調査が行われた(地図)。第1回の2007年の調査から被災地である仙台市が調査都市に含まれており、本研究では震災前後(2009年と2011年)の仙台市の中高齢者のパネルデータと、震災の直接の影響を受けなかった6都市の2009年と2011年のパネルデータを利用し、差の差の検定 (Difference-in-Difference)を行い、震災による経済的・心理的影響を推定した。

分析結果

結果、60代の女性被災者と震災前に平均以上の金融資産を持っていた人の主観的幸福度が、震災後に統計的有意に減少していることが明らかとなった。しかし、その他の性別年齢層の被災者については、主観的幸福度に統計的有意な減少は見られなかった(表1)。しかしながら、精神状況について詳細に検討した場合、震災後6カ月経った時点でも睡眠に問題をかかえていたり、悲しくなったりする、という問題を抱える人が仙台市で統計的有意に多く見られた。経済状況については、仙台市の回答者は、食費と耐久財消費と毎月の家計全体の消費の増加が統計的有意に見られ、男性の労働時間も統計的有意に増加していた。この結果は、調査被災地である仙台市は復興の要となる地域であり、そこでの経済的復興が起こったことを表している。この迅速な経済的復興が、被災者の主観的幸福度が震災の6カ月後に有意な変化が見られなかったことと関連していると推測される。

しかしながら、被災地の中でも海岸沿いと内陸部では被害の状況も大きく異なり、仙台市は東北一の大都市のため、他の被災地では主観的幸福度および経済状況への影響が仙台市とは異なるものであると予測される点は十分留意する必要がある。

地図:「くらしと健康の調査 (JSTAR)」2009年・2011年調査都市および東日本大震災の被災地
地図:「くらしと健康の調査 (JSTAR)」2009年・2011年調査都市および東日本大震災の被災地
表1:年代・性別別の震災による主観的幸福度への影響:固定効果モデルによる推計
被説明変数:人生の満足度 (低い1-4高い)
男性 女性
Total 50s 60s 70s Total 50s 60s 70s
震災後ダミー
×仙台ダミー
-0.003
(0.063)
-0.209
(0.146)
-0.026
(0.087)
0.076
(0.087)
-0.049
(0.056)
-0.01
(0.131)
-0.114*
(0.067)
0.14
-0.099
震災後ダミー 0.068
(0.124)
-0.054
(0.253)
0.271
(0.171)
-0.046
(0.194)
0.191
(0.117)
0.447*
(0.265)
0.047
(0.158)
0.138
-0.185
定数項 -2.046
(4.689)
-6.252
(17.517)
1.857
(9.535)
-0.971
(15.482)
0.819
(4.680)
17.760
(17.160)
-9.926
(9.805)
-5.352
(15.681)
R-squared 0.014 0.048 0.011 0.022 0.015 0.056 0.027 0.010
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注:年齢、年齢の二乗、婚姻状態、IADLA、家計所得のlogをとったもの、年金受給の有無を説明変数に含んでいる