執筆者 | THORBECKE, Willem (上席研究員) |
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研究プロジェクト | East Asian Production Networks, Trade, Exchange Rates, and Global Imbalances |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジアの生産ネットワーク、貿易、為替、世界的不均衡」プロジェクト
日本は東アジアのバリュー・チェーンの川上にあり、高度な資本財・中間財を大量に中国やASEAN諸国、韓国、台湾に輸出している。これらの財はその後、再輸出品の製造に利用されることも多い。
資本財・設備財は、日本の輸出構造全体において極めて重要である。1983年以降、資本財は日本の輸出額の30-40%を占めており、2009年にこれらの輸出額が32%減少した際には、企業の営業利益も雇用も大きな打撃を受けた。
日本の資本財・設備財の輸出の約50%は対東アジア諸国、40%はOECD諸国向けである。図1aは、日本から東アジア・サプライチェーン諸国向け資本財・中間財の輸出額の推移を、図1bは東アジア・サプライチェーン諸国以外向け資本財・中間財の輸出額の推移をそれぞれ示している。東アジアのサプライチェーン諸国とは、中国、インドネシア、マレーシア、シンガポール、韓国、台湾、タイを指す。図1aと図1bは、対東アジア諸国の場合、日本の資本財輸出と中間財輸出は密接に関連しているが、その他地域の場合、資本財輸出と中間財輸出の関連性はやや低いことが見てとれる。日本の対東アジア資本財輸出は、東アジアのバリュー・チェーンと密接に関係しているといえよう。したがって、東アジア諸国から世界全体への輸出増加は、日本の対東アジア資本財輸出の増加につながることとなろう。
本稿では日本の資本財輸出の決定要因に関するエビデンスを示す。日本の主要貿易相手国向け資本財輸出や、さまざまな規格を含むパネルデータを使用した。その結果、日本の資本財輸出は為替レートや輸入国側の所得、東アジアからの輸出に対し敏感に反応することが示された。
2008年のサンプルを切り捨て、2009年の為替レート、所得などの独立変数を実質値として使用した場合、2009年の資本財輸出においては予測値より実際の減少分のほうが大きかった。この結果、アジア諸国の輸出急落、世界同時不況、円高の組み合わせにより、2009年に日本の資本財輸出は壊滅的な影響を受けたことが示唆される。
2012年11月に円安に転じると、韓国の自動車メーカーは価格競争力や収益性の面で円安による悪影響が出ていると不満を訴えた。韓国企画財政部長官(財務大臣に相当)は円安によって韓国の輸出に赤信号が灯ったと警鐘を鳴らし、日本が近隣のアジア諸国に通貨戦争を仕掛けていると批判する向きも多かった。他方、日本と補完関係にある東アジア新興国における円安がもたらすプラスの影響についてはあまり議論されていない。本稿で得られた結果は、円安によってアジアおよびその他地域向け資本輸出は着実かつ大幅に増加するであろうことを示唆しており、日本企業はその恩恵を受けることができる。同時に東アジアの企業は、必要不可欠な材料を確保し、新技術を取り入れることによって、また、先進国企業は産業内貿易による収益機会を拡大することによって、それぞれ恩恵を受けることとなろう。