ノンテクニカルサマリー

労働成果の享受:アジアの輸出を域内消費者に転換

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「East Asian Production Networks, Trade, Exchange Rates, and Global Imbalances」プロジェクト

東アジアの生産ネットワーク内における部品の取引が、爆発的に増加している。中国は生産財の最終組み立てを担うようになり、これらの財は主に域外に流れ出る。世界金融危機発生当時、西側の需要減少と期を同じくしてアジアの輸出は減少した。より多くの最終財がアジアの消費者の手に渡れば、域外で起こりえる減速に備えられるだろう。

本稿では、重力モデルを使用し、新興アジア諸国による消費財輸入が予想よりも少ないかの調査を行った。図1aおよび図1bが示すように、世界金融危機以降、中国・ASEAN諸国は予測された以上に最終財を輸入していたことがわかった。図は、中国および域内生産ネットワークに最も深く組み込まれている新興ASEAN諸国(マレーシア、フィリピン、タイ)の実際の輸出と、予測された輸出の差を百分率で示している。図1aは自動車以外の消費財輸入、図1bは自動車を含んだ消費財輸入を示す。双方の図が、2005~2012年の実際の消費財輸入は、予測された消費財輸入と比較して増加していることを示す。ASEAN諸国については、2012年の自動車以外の消費財輸入は期待値より12~13%高く、自動車を含む消費財輸入は12~15%高かった。中国については、2012年の自動車以外の消費財輸入は期待値より10%高く、自動車を含む輸入は20%高かった。世界金融危機以降、4カ国すべてにおいての実際の輸入は、期待値と比較して増加した。

これにもかかわらず、中国の1人あたりGDPに占める1人あたりの消費財輸入の割合は、他の国と比べて依然として低い。これは、最終財の輸入の不足につながっている構造的な問題への対応の必要性を浮き彫りにしている。1つの要因が中国の消費財輸入に課される関税やその他の保護主義的な障壁である。2014年のアジア環太平洋経済協力会議(APEC)サミットの席上、中国の習近平国家主席は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を提案した。輸入制限の水準を引き下げることによって中国の消費者は輸入品の消費を増やすことができるだろう。

消費財の輸入を妨げる2つ目の構造的な要因は、消費を犠牲にして投資を優遇する規制の歪みである。たとえば中国は家計の預金金利に上限を設けている。このような銀行部門に対する規制の結果、大企業の資本コストが人為的に引き下げられ、投資を刺激している。同時に、金利の上限によって家計の所得や支出が圧迫されている。また、サービス産業の大部分が、競争から保護されていることも挙げられる。自由市場が果たす役割を拡大することで、労働集約型の雇用が増加し、その結果多くの労働者の所得や消費が増加するだろう。2013年に開催された中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議において、中国政府は労働者や消費を犠牲にして企業や生産を優先させるという、インセンティブ構造の変更を誓う青写真を示した。このような改革によって中国の消費者がより多くの消費を認められるという恩恵にとどまらず、中国が成長エンジンとして発展を続けることの一助となるだろう。これによって域外で発生する需要ショックに対するアジア諸国のレジリエンスを高めることになるだろう。

図1a:実際の消費財輸入(自動車以外)と重力モデルによる期待値との差
図1a:実際の消費財輸入(自動車以外)と重力モデルによる期待値との差
出所:CEPII-CHELEMデータベースをもとに著者が計算
注:消費財は以下に分類される:飲料、自動車、じゅうたん、穀物製品、映画用機械、時計、衣類、家庭用電化製品、民生用機械器具、ニット製品、その他の製造業製品、医薬品、写真機器、果実および野菜保存製品、食肉および魚肉保存製品、石けんおよび香水(化学薬剤を含む)、スポーツ用品、化粧品類、玩具および腕時計。
図1b:実際の消費財輸入と重力モデルによる期待値との差
図1b:実際の消費財輸入と重力モデルによる期待値との差
出所:CEPII-CHELEMデータベースをもとに著者が計算
注:消費財とは以下の分野のものである:飲料、自動車、じゅうたん、穀物製品、映画用機械、時計、衣類、家庭用電化製品、民生用機械器具、ニット製品、その他の製造業製品、医薬品、写真機器、果実および野菜保存製品、食肉および魚肉保存製品、石けんおよび香水(化学薬剤を含む)、スポーツ用品、化粧品類、玩具および腕時計。