ノンテクニカルサマリー

1980-2010年における中国の純資本ストックのデータ構築、資本サービスの推計

執筆者 伍 曉鷹 (一橋大学経済研究所)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

「東アジア産業生産性」プロジェクトにて研究を行っている中国産業生産性(China Industry Productivity)において、我々は中国の産業別純資本ストックのデータ構築と中国経済の資本サービスの推計を試みた。これは史上初の試みである。主に、産業別投資フローの再構築、初期資本ストックの推計、産業別デフレーターおよび減価償却率の計測、37産業の純資本ストックの構築、資本サービスの推計を行い、以下のような知見を得た。

図:中国経済における資本投入の年変化の推移
図:中国経済における資本投入の年変化の推移

中国のGDPの急速な成長は資本投入のさらに著しい伸びにより達成されたことが分かった。また、1980-2010年における中国の純資本ストックの年成長率は12%であった。1980年代の改革初期には経済体制改革が進められ、価格双軌制の影響があったにもかかわらず、中国は10%を超える純資本ストックの年成長率を達成したことも明らかになった。1990年代にも、より急速な成長(13%)が進み、中国のWTO加盟後、一層加速(17%)したことが示された。さらに、世界的な金融恐慌以降は、前例のない大規模な財政刺激策が中国の純資本ストックの成長を年成長率20%以上に押し上げたことが分かった。このことは上記の図から見てとれる。この図では推算された資本ストックに基づいて推計された資本サービスの推移(投入コストをウェイトとして加重)を示している。

しかしながら、ユーザーコストにウェイトを置いて推計された資本サービスの変化を見ると、1990年代の後期あるいは2000年代の初期以来、収益率が高い資産よりむしろ収益率が相対的に低い資産に取って代わっている。これは中国経済において資本配分の歪みと資本流動性への障壁が生じていたことを示唆していると考えられる。このことは中国の資本資源の有効利用を考える上で、政策立案者が真剣に取り組むべき点と思われる。