ノンテクニカルサマリー

日本企業の海外進出が製造業の国内雇用に与える影響

執筆者 児玉 直美 (コンサルティングフェロー)
乾 友彦 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 日本企業の競争力:生産性変動の原因と影響
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本企業の競争力:生産性変動の原因と影響」プロジェクト

既存研究では、海外直接投資/オフショアリングと国内雇用には補完的な関係、あるいは少なくとも代替的な関係はないとする研究が多い。しかし、現実には、最近20年間の日本では、製造業の多国籍企業の海外展開が進み、製造業の国内雇用は減り続けている。本稿は、既存研究と観測される事実とのギャップを埋めることを試みた。

2006年~2009年の間に、純雇用を減少させたのは、子会社のない企業に属する事業所と海外子会社非増加企業に属する事業所であった。特に、単独事業所においては、純雇用減少のほとんどは子会社のない企業であった。海外子会社増加企業に属する事業所では、海外における活動と国内活動は補完的であるようであるが、海外子会社非増加企業に属する事業所では、海外活動は必ずしも国内雇用を増加させたとはいえない。すなわち、子会社を持たない中小企業の衰退と海外進出企業の成熟化が日本の製造業の雇用を減少させている。

多国籍企業の純雇用増減率は必ずしも高くないが、多国籍企業の雇用創出率、雇用喪失率の両者ともに国内企業に比べて高い。これは、複数事業所を持つ企業の新設事業所による雇用創出率が高く、廃止事業所による雇用喪失率の絶対値が高いためである。単独事業所の新設事業所による雇用創出率、廃止事業所による雇用喪失率は、多国籍企業であっても非常に低い。日本企業のグローバル化により雇用創出率、雇用喪失率が高まることは、プラス面とマイナス面の両面を持つ。プラス面としては、雇用創出率、雇用喪失率が高ければ、市場の変化に適応して資源の最適配置が行われやすくなることが挙げられる。一方、マイナス面としては、日本のように雇用の流動性が低い社会では、高い雇用喪失率は失業問題を引き起こす可能性が高いことである。実際、事業所閉鎖が即企業閉鎖に繋がる単独事業所において、雇用が保蔵される傾向にあることが判明した。

国内子会社増加企業に属する事業所の純雇用増減率は、大企業、中企業、小企業いずれにおいても、海外子会社増加企業に属する事業所よりも高い。マクロ経済政策の関心は、多国籍企業の業績拡大に向かいがちであるが、国内の雇用を創出する観点からは、より国内子会社増加企業の重要性が認識されるべきである。

日本の海外子会社は、現地法人設立から年数が経つにつれて、日本からの調達を減らし、現地企業からの調達を増やす傾向がある。これまでのように、海外子会社数が純増している間は、日本からの調達が増え、日本の輸出も増えるが、ひとたび、海外進出が定常状態になると、日本からの調達は徐々に減っていくことが予想される。そこで、長期的には、日本企業の海外進出は国内雇用を減少させるだろう。これまでは日本企業の海外子会社数は純増し続けていたが、近年、その伸び率が鈍化し、日本の親企業と海外子会社の関係が変化し始めたために、最近の円安が輸出増加や国内の生産増加に繋がっていないものと推測される。

国内市場のパイが縮小する中、国内にとどまる企業の雇用は縮小せざるを得ない。増加が予想される失業に対するセーフティ・ネットや、サービス産業への雇用の転換を促す再教育支援が必要であろう。

(注)雇用創出率とは雇用成長率が正の事業所について同一グループ内のウエイトを加味した雇用成長率を足し上げた数値、雇用喪失率とは雇用成長率が負の事業所についてウエイトを加味しながら雇用成長率を足し上げた数値、純雇用増減は雇用創出率から雇用喪失率を減じた数値、雇用成長率は2時点の雇用増減を平均値で除した数値、ウエイトは同グループ内の雇用者数合計に対する当該事業所の雇用者数である。詳しい定義は、本文参照のこと。

図表1:子会社有無カテゴリー毎の雇用創出率、雇用喪失率、純雇用増減率
図表1:子会社有無カテゴリー毎の雇用創出率、雇用喪失率、純雇用増減率
資料:平成18年事業所・企業統計調査、平成21年経済センサス基礎調査から筆者作成。
図表2:子会社有無カテゴリー毎の従業者数変化
図表2:子会社有無カテゴリー毎の従業者数変化
資料:平成18年事業所・企業統計調査、平成21年経済センサス基礎調査から筆者作成。