ノンテクニカルサマリー

非財務情報の開示と外国人投資家による株式保有

執筆者 児玉 直美 (コンサルティングフェロー)
高村 静 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究」プロジェクト

1990年代以降の外国人投資家の存在感の高まりは、企業経営者の意識や行動に大きな影響を与えた。外国人投資家が選好する株式の銘柄には偏りがあることが知られているが、その選好の大きな要因の1つは「情報の非対称性」だと指摘されている。

外国人投資家は、彼らがアウトサイダーであること、外国人であることから、いわゆるインサイダー株主(持ち合いや金融機関による株式保有など)などよりも情報の非対称性が高い。そこで彼らが重視したのが、企業統治(コーポレート・ガバナンス)の改革と、言語や文化の壁を低める企業の情報開示の充実である。

これまで外国人株主の株式保有について、情報の非対称性の小さな大企業が選好される傾向があることや、企業業績との関連が議論されてきたが、ここでは企業の情報開示との関連性を検討した。

取り上げたのは、有価証券取引法で開示の義務付けがある財務情報を中心とする情報ではなく、企業が任意に開示する非財務情報である。財務情報が企業の過去の実績を示すのに対し、非財務情報は企業の将来の価値創造能力や持続可能性を示すものとして、投資家からの開示要請が高まっている。しかしまだ開示のための制度的枠組みはない。

そこでここでは、2006年以降継続してデータを保有する東洋経済新報社の「CSR(企業の社会的責任)企業調査」のデータを用いて検討した。このデータは、2014年1月に、内閣府男女共同参画局が企業の女性活躍の「見える化」を進める施策の一環として企業ごとの女性活躍度の関連情報を公表する際にも基礎資料とされた。ここでは企業の財務変数をもつ日経NEEDS財務データと接続させることで分析用のデータとした。

分析の結果、(1)非財務情報を開示している企業は大企業であることが多いが必ずしも業績のよい企業ではない、(2)非財務情報を開示している企業では業績や株価の変動性が小さく安定的である、(3)非財務情報を開示している企業は外国人保有比率が高い、(4)外国人保有比率はリーマンショック後減少・停滞しているが、この時期ほど非財務情報の開示が外国人保有比率を高める傾向が大きい、(5)株主以外のステイクホルダー(消費者や従業員など)に対する組織的対応の有無などをコントロールすると、非財務情報の開示が外国人保有比率を高める効果はより大きくみられる、などである。

非財務情報を開示する企業は、リーマンショック後の5年間の企業業績や株価の変動が小さく持続可能性の高い企業であった。各証券取引所は投資家から特に関心の高い非財務情報としてコーポレートガバナンスに関する情報を「コーポレートガバナンス報告書」として共通の様式によって報告することを上場企業に求めている。その中で社内外および独立性の有無などの役員会の構成を明らかにすることが求められているが、2013年4月の記載要領の改訂では更に男女別の役員構成を自主的に明らかにすることが求められた。女性の活躍を含む非財務情報が開示されること自体によって企業内部の取り組みの進展が期待されているところであるが、その情報が投資家に評価され外部ガバナンスのあり方に影響を与えることによって企業経営の全体的な規律付けや効率性が高まり、業績に結びつくことが期待される。

図
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(注)ここでは2007年度~2011年度の5年分の業績指標を完備する企業データのみを対象に、その間の企業ごとの各業績指標の平均値(収益性)と標準偏差の平均(変動性)を示している。
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