ノンテクニカルサマリー

コメのSBS制度からみた輸入の可能性

執筆者 慶田 昌之 (立正大学)
研究プロジェクト 日本経済の課題と経済政策Part3-経済主体間の非対称性-
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

新しい産業政策プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本経済の課題と経済政策Part3-経済主体間の非対称性-」プロジェクト

本稿では、コメの輸入に関してSBS制度の現状をみることで、もしコメの関税を引き下げた場合に輸入量がどのように影響を受けるかを考察した。日本のコメ市場は高い関税に守られて、国内での消費量約800万トンに対して、輸入量はミニマムアクセス米の77万トンと1割に満たない量となっている。一方で、TPP交渉のように国内の農産物に対する高い関税の引き下げは、今後も国際的な議論となりうる。したがってコメの関税を引き下げた場合に、輸入量がどの程度になるかという問題は注目を集めている。この問題を考える上では、現在の輸入の実態を把握することが極めて重要である。一方で、ミニマムアクセス米の多くの部分は、飼料に用いられたり、海外への援助として用いられたりしており、主食用のコメとして用いられる量は非常に少ない。

その中で、SBS米という多くの部分が主食用として用いられる輸入米に注目すべきである。SBS米は、日本が実際に輸入しているミニマムアクセス米のうち10万トンを上限として政府が輸入を認めているものである。これは、海外輸出業者、国内輸入業者および政府の間で取引され、政府が海外輸出業者から買う買入価格と、政府が国内輸入業者に売る売渡価格が入札される。この買入価格と売渡価格の差額はマークアップと呼ばれ政府の収入となる。政府は、マークアップが大きい組み合わせから10万トンを上限として輸入を認めるものである。このように海外輸出業者と国内輸入業者がペアとなって入札するため、国内市場の需要に応じたコメが輸入されている。この用途は主食用が大きな部分を占めている。マークアップは実質的に関税となり、関税をオークションで決める制度であると考えられる。

このような制度のもとでSBS米の不落札がしばしば起こっている(図1参照)。とくに2010年度は落札量が3万7000トンと最も少なかった。10万トンの量的な枠があるもとで、不落札が発生する理由は、国内市場の需要と海外市場の供給にミスマッチが発生しているためであると考えられる。本稿では、国内市場の需要が低下していたこと、海外市場での価格の上昇があったことを確認した。SBS米の不落札は、市場動向を反映して内外価格差が縮まったことが要因であると結論される。また、SBS米のマークアップからは200%を下回る関税率であっても輸入される量は限定的であると考えられる。

一方で、国内市場のデータをみることは、SBS制度から関税を引き下げた場合の国内市場への影響を考える上で必要である。国内市場は多様化したブランドをもつ市場となっている。大きく分けて高価格コシヒカリ(魚沼産コシヒカリなど)、低価格コシヒカリ、その他のブランドの3つに分けられている。国内の多様化したコメのブランドのなかでも、ボリュームゾーンの品質に相当する低価格コシヒカリに相当するコメの輸入が多いことが示される。すなわち、日本で好まれる品質のコメが輸入されていて、その供給量は価格に応じて決まっており、国内市場の価格が低下すると好ましい品質のコメの輸入は減少したと考えられる。

以上のことから、関税の引き下げは短期的には影響が限定的であるとみられる。一方で日本市場のボリュームゾーンに相当する品質のコメがSBS米として輸入されており、長期的にはこの品質のコメが輸入される可能性がある。この点から、コメ生産の生産性を引き上げる政策の必要性が示唆される。

図1:SBS米の落札数量と入札回数
図1:SBS米の落札数量と入札回数
左軸目盛:トン、右軸目盛:回
1995年度から2004年度までは農林水産省 (2013)「米をめぐる関係資料」より作成
2005年度から2013年度までは農林水産省webページ「 輸入米に係るSBSの結果概要」より作成