ノンテクニカルサマリー

韓国の積極的雇用改善措置制度の導入とその効果および日本へのインプリケーション

執筆者 大沢 真知子 (日本女子大学)
金 明中 (ニッセイ基礎研究所)
研究プロジェクト ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究」プロジェクト

本論文では、韓国において2006年に民間部門に導入された積極的雇用改善措置(Affirmative Action:AA)が、企業のジェンダー・ダイバーシティや企業収益にどのような影響を与えたのかを分析するとともに、日本へのインプリケーションについて考察した。

日本と韓国の年齢階層別の女性の労働力率はM字を描いている。また、女性の大学への進学率は上昇しているにもかかわらず、大卒の労働力率はOECD平均からみても低い。さらに、管理職に占める女性の比率は先進国のなかでも際立って低くなっている。つまり、女性人材の供給パイプラインがどちらの国でも先細りになっている。

女性人材供給パイプ ライン
図:女性人材供給パイプ ライン
出所)McKinsey&Company(2012)Women Matter: An Asian Perspective 2012

このように日本と韓国は共通の課題を抱えているにもかかわらず、今後の企業戦略としてジェンダー・ダイバーシティを優先課題と考え、その動きを加速させたいと考える企業の割合が韓国では多いのに対して、そう考える日本の企業はそれほど多くない。

韓国においては2005年12月に男女雇用平等法が改正され、2006年3月1日からAAが施行されている。企業規模別、産業別の女性雇用比率と女性管理職比率の平均を計算し、その(平均の)60%に達していない企業に対して改善を勧告するというものである。勧告された企業はつぎの年の3月末までに雇用改善の目標値や実績、さらには雇用変動状況などを雇用労働部に報告することが義務づけられている。

当初は1000人以上の企業が対象であったが、2008年3月からは対象が500人以上の事業所や公的機関にまで拡大した。その結果、積極的雇用改善措置が適用された企業数は546事業所(2006年)から1674事業所(2012年)に増加した。

その結果、2006年から2012年にかけての女性雇用率と管理職に占める女性比率を日韓両国で比較すると、韓国の伸び率の方が日本よりも大きい。

「Looking Ahead, do you expect your company to accelerate implementation of gender diversity measures?」にyesと答えた企業の割合
図:「Looking Ahead, do you expect your company to accelerate implementation of gender diversity measures?」にyesと答えた企業の割合
出所)McKinsey&Company(2012)Women Matter: An Asian Perspective 2012
日韓における女性雇用率と管理職に占める女性比率の推移
図:日韓における女性雇用率と管理職に占める女性比率の推移
出所)韓国雇用労働部(2012)「積極的雇用改善措置制度の男女労働者現状分析結果(2012年)」、雇用労働部(2013)「事業所1778カ所、男女労働者雇用現況」2013年9月23日公表資料

韓国労働研究院の「事業体パネル調査」を使って、AAの効果を実証分析した結果、積極的雇用改善措置対象企業の方が、女性雇用率や女性管理職比率が高いという結果がえられた。また、ROA(総資本利益率)も高いという結果がえられた。さらに、積極的雇用改善措置の適用を受けて改善をすすめた企業の当期純利益の増加率が高いということもわかった。

日本では、2007年の均等法の改正においてポジティブ・アクションの導入が推進されている。しかし、実際の取り組みを行うかどうかについては、企業の自主性に任されている。韓国のAA導入の経済効果をみると、日本においても女性労働の能力活用を進めるためのポジティブ・アクションの導入を検討する時期にきていると考える。