執筆者 | 石塚 浩美 (産業能率大学) |
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研究プロジェクト | ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究」プロジェクト
日本政府は、女性が活躍できる日本のロードマップとして「202030」を掲げている。これは、社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に占める女性の割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する、とした政策目標である。しかしながら、現状では平均的にみて10%程度であり、実現は容易ではなさそうである。また、日本経済は1990年代から長引いた不況やデフレ経済などのため、財政赤字が拡大しているうえ、2004年12月の1億2784万人をピークに人口は減少を続け、2050年には9515万人に、2100年は4771万人になることは必至である。
世界経済フォーラムによる2013年の男女間格差指数(GGGI)をみると、日本は136カ国(地域)中、第105位であり、OECD諸国最下位の韓国の第111位に次いで2番目に男女間格差が大きい。石塚(RIETI DP 14-J-010,第2.1節)で明らかなように、特に経済面の男女間格差が総合順位を引き下げている大きな要因の1つである。これらの現状を受け、IMFやアメリカ政府などが、日本女性の経済面の活躍に進言するという外圧も生じている。
本DPでは、女性の活用に関して共通点のある中国企業や韓国企業を対象に、女性の活躍と、各国企業における収益・生産性・韓国の積極的雇用改善措置(AA)制度についての実証分析を行った。個々の企業が動いて、女性の活躍は達成でき、日本、アジア、そして世界の「人財」は育成され、経済発展に繋がっていく。
まず中韓企業は、女性社員を増やすためにどのような方法を採用しているのであろうか。表1をみると、中国と韓国の違いが分かる。中国は、計画経済期に男女共に就業する社会を実現したことも背景にあり、この基盤を固める方向の“社内メンター制度”、“女性社員のスキル育成プログラム”、あるいは“経営層のコミットメント”という方法を採用している。一方、韓国は“人材多様化の企業文化の醸成”が突出している。まずは、職場の理解を深め、ダイバーシティ(職場の多様性)、ジェンダーダイバーシティ経営(GDM:企業における女性活用)や、ワークライフバランス、の価値観を共有する所から始めるということであり、日本も同様である。
中国 | 韓国 | |||
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中企業 | 大企業 | 中企業 | 大企業 | |
1) 経営層のコミットメント | 20.6 | 23.8 | 0.9 | 4.3 |
2) 取締役への女性登用 | 11.1 | 7.9 | 3.0 | 8.6 |
3) 人材多様化の企業文化の醸成 | 12.1 | 14.9 | 23.4 | 37.1 |
4) 社内メンター制度 | 35.2 | 33.7 | 7.2 | 21.4 |
5) 女性社員のスキル育成プログラム | 28.6 | 32.7 | 6.8 | 25.7 |
6) 女性社員ネットワーキング | 16.1 | 15.8 | 11.1 | 18.6 |
7) 短時間勤務 | 16.1 | 19.8 | 3.4 | 15.7 |
8) 在宅勤務 | 11.1 | 6.9 | 1.3 | 0.0 |
9) 社内保育施設 | 9.0 | 12.9 | 2.6 | 11.4 |
10) 管理職への女性登用率の目標設定 | 3.0 | 2.0 | 9.8 | 20.0 |
11) 何もしていない | 36.7 | 29.7 | 48.9 | 30.0 |
12) わからない/無回答 | 0.0 | 0.0 | 23.0 | 12.9 |
出所:石塚浩美(2014)「日本・中国・韓国企業におけるジェンダー・ダイバーシティ経営の実状と課題 -『男女の人材活用に関する企業調査(中国・韓国)』605企業の結果-」、RIETI Discussion Paper 14-J-010、経済産業研究所、表3-2-3. 注1. 斜体青字は、第2位までの数値と、本文で特筆した数値に付す。 注2. 「女性社員を増やそうとしているか」という設問の回答に関わらず、全ての企業から回答を得ている。したがって、全企業を100とした割合を表す。 |
本DPの分析では、利益や生産性に影響するものとして、GDM施策、GDM施策の1つで性別分業意識など“企業文化の醸成”に関わる要因、WLB施策、人材多様性、企業の基本属性、を挙げた。
実証分析は、企業の収益分析、生産性分析、韓国のAA制度について行った。結果として、日本、中国、および韓国において、企業収益や生産性の高い企業には共通点があることが導出された。1)管理職の女性割合が高いこと、2)女性の就業継続傾向が確認できること、3)育児休暇の取りやすさは、収益性とは相関は認められなかったが、生産性とは正の相関があること、4)“CSR部門設置企業”は、産業や企業規模によっては収益が高いこと、5)女性の採用を増やそうとしている企業は、高収益であること、6)日本は女性役員が1人でもいる企業で収益が高い、但し中国と韓国で経営層の女性比率をみると低い(複数名の女性役員もありうる)ほうが収益・生産性ともに高いこと、である。これらの項目は、人口減少が進む日本においてグローバル化を考慮した場合、企業収益や生産性に貢献するのではないだろうか。またGDMが実現された企業は男女共に活躍できるだけでなく、若年層などにとっても活躍できる“ダイバーシティ”が実現された企業となるであろう。
そのためのヒントは、韓国のAA制度が参考になると考える。創設後に女性従業員および管理職が微増している。さらに今後、対象企業が拡大しても、同女性比率は微増していくことが確認された。
