執筆者 |
樋口 美雄 (ファカルティフェロー) 児玉 直美 (コンサルティングフェロー) |
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研究プロジェクト | ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「ダイバーシティとワークライフバランスの効果研究」プロジェクト
多くの国で、女性は、開業率が低い一方、廃業率は高く、開業後の成長は低いといわれる。本来、開業やその後のパフォーマンスには、資金調達、人材確保、販売先・受注先の確保、調達先の確保などが影響を与えるにもかかわらず、こうした要因はコントロールしないまま、あたかも男女の性差によって開業率、企業のデフォルト確率、成長率に差があるが如く扱う統計的差別理論によって、女性の資金調達を難しくしている可能性がある。本稿は男性に比べて女性の資金調達は実際難しいのか、もし本当に難しいとしたら、それが女性の開業パフォーマンスの低さに影響しているのかについて、開業企業のパネル調査を用いて実証分析することにする。
分析の結果から、融資を検討した企業サンプルを対象に融資確率を男女で比較すると、女性は男性に比べて11-14%融資確率が低いことが分かった。実際融資を申し込んだ企業サンプルで分析をすると、その差は2-3%に縮まる。つまり、女性は金融機関に申し込みをする前の段階で諦めることが多く、融資を申し込んだ段階では男性とほとんど融資確率に差は見られない。
それでは女性はなぜ融資を諦めるのか? 分析結果によると、業種、規模、事業経験、債務償還能力、収益性、安全性などが同じような条件を持っている男性企業と女性企業では、成長率も投資額も同じ程度である。融資確率が同じ程度の男女のパフォーマンスが同じであることから、女性のみがいたずらに資金調達のハードルが高いわけではないことが分かった。この結果からは、金融機関の融資判断は合理的であるといえる。
女性が融資を諦めやすいことに対して、政策的に何かできるだろうか。男女の諦めやすさの違いが、心理的性差によって生じているものなのか、それとも女性の場合、男性と同じような申請でも融資を拒否されることが多く、その結果、早々に諦めてしまうのか。どちらの要因がより大きく影響しているのかによって、政策提言内容は異なる。前者であっても後者であっても、女性は、融資を申し込む段階にまで達すれば男性とそれほど違わない確率で融資が受けられることを認識して、諦めることなく、粘り強く融資申し込み・交渉を行うべきである。シェリル・サンドバーグが書いたように、キャリアアップのチャンスの時に女性は手を挙げてテーブルにつくのをためらう傾向がある。女性自身の意識を変え、"Lean in" 一歩踏み出そう、無理だと思わず、恐れず、自分の持てる力を思い切り発揮しよう。