ノンテクニカルサマリー

内生的労働供給と国際貿易

執筆者 吾郷 貴紀 (専修大学)
森田 忠士 (近畿大学)
田渕 隆俊 (ファカルティフェロー)
山本 和博 (大阪大学)
研究プロジェクト 地域の経済成長に関する空間経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「地域の経済成長に関する空間経済分析」プロジェクト

グラフ

労働時間がどの様な要因に決定されるのか、そしてそもそもどのように推移しているのかを知ることは非常に重要である。上記の図はOECD諸国の労働時間の変遷を表している。この図を見ると、労働時間が労働生産性の高い国では短く、低い国では長くなることがわかる。さらに、この図が表している期間より前の期間の労働時間を調べると、産業革命の期間以前には短かった労働時間が産業革命期を通じて上昇し、その後下降に転じていることが確認される。つまり、労働時間は産業革命以降、2つの現象が見られることがわかる。1つ目の現象は産業革命以前から産業革命期における労働時間の上昇、2つ目の現象は産業革命後の労働時間の減少である。時間を通じて、労働時間は逆U字型の曲線を描いて低下してきているのである。本論文はこれらの事実の原因を説明する理論を提供している。

本理論のモデルにおいては、労働時間を増やすと余暇が減少するが名目所得が増加する。技術革新により、労働生産性が高まると、同じ労働時間でも獲得名目所得は増加する。本論文はこのような技術革新が上記2つの現象を説明する上で重要であることを示した。技術革新が進むと、直接的には名目所得が上昇し、所得効果を通じて余暇の需要を増やすことになる。これは労働時間を短縮することにつながる(所得効果)。しかし、この技術革新は、余暇の機会費用を上昇させ、労働時間が短縮する効果もある(代替効果)。

消費財の多様性が少ない場合では、代替効果が所得効果を上回り、技術革新は労働時間を長くする。しかし、消費財の多様性が多くなると、所得効果が代替効果を上回り、技術革新によって労働時間が短くなる。

この結果を使って上記2つの現象を説明することが出来る。消費財の多様性が多くなった現在の経済においては、労働生産性の上昇は労働時間を減少させる。したがって、労働生産性の高い国では労働時間が短くなり、労働生産性の低い国では労働時間が長くなる傾向にある。この時、労働生産性の高い国の賃金は労働生産性の低い国の賃金より高くなることを示すことができた。このことが国間での労働時間の違いを生み出している。また、労働生産性の高い国において賃金が高くなることも現実データと一致している。

労働時間の時間による変遷も次のように説明できる。消費財の多様性の少なかった経済発展の初期段階においては、技術革新は労働時間を長くさせる。しかし、経済発展が進み、消費財の多様性が増えると、技術革新は労働時間を低下させる。つまり技術革新によって労働生産性が向上すると、経済発展の初期段階では労働時間が長くなるが、経済の成熟化に伴い、労働時間が短くなるのである。また、経済厚生はこのような技術革新によって上昇することが確認されている。

本論文は労働生産と労働時間に密接な関係があり、現在経済においては労働“生産性”の向上が労働時間を短くすることを示している。つまり、労働生産性を高めるような技術革新の継続が余暇時間の増加につながり、また、経済厚生を高めることを示している。労働生産性の上昇により、消費財の多様性は増加し、同時に労働時間が短くなって余暇が増えているからである。労働生産性の上昇によって、労働時間が短くなってより豊かな余暇を楽しむことが可能になるのである。

本論文は労働生産性の向上に政策的に取り組むことの重要性を示している。労働生産性は技術革新によって向上する。このような技術革新に補助金を出すことは労働生産性の向上につながり、経済厚生を上昇させる可能性がある。また、労働生産性は教育を通じた人的資本の蓄積によって高まるであろう。従って教育に対する補助金、またより効率的な教育システムの構築によって人的資本蓄積を促し、経済厚生を上昇させることが期待される。

ワークライフバランスの達成、長時間労働による女性の労働参加が難しくなることなど、労働時間が政策的な課題に上ることは多い。本論文の結果から労働生産性の上昇こそがこういった問題の解決の鍵となることを示唆している。労働生産性の上昇により、余暇時間が拡大することで男性の育児・家事への参加時間が上昇し、女性の社会進出も容易になると考えられる。その結果、女性の就業率の上昇と出生率の増加が達成できる可能性がある。