ノンテクニカルサマリー

中国における加工品輸出競争力の測定

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「東アジアの生産ネットワーク、貿易、為替、世界的不均衡」プロジェクト

2012~2013年に中国の加工貿易の黒字額は約4000億ドルに上った。2000~2013年の間に中国の加工貿易の黒字額は累積で3兆ドルに達した。加工貿易では、タブレットPCなどの輸出品の製造に使用されるマイクロプロセッサなどの部品を無関税で輸入できる優遇税制が適用される。中国にはこのほかに一般貿易を対象とした税制がある。輸出される一般製品の多くは靴や玩具などの低級品であり、その付加価値の大半は国内で生み出される。

一方、加工輸出品の付加価値の大部分は、台湾、韓国など、東アジア諸国で生産された高度な中間財から生み出される。したがって、加工輸出品はサプライチェーン全体の為替レートの影響を受ける。

本稿では、サプライチェーン全体の為替レートのデータを、中国の加工品輸出先各国との相対比で示す(IREER)。図1は、2005年第1四半期から2013年第4四半期にかけて、人民元が36%上昇したのに対し、IREERは14%の上昇にとどまったことを示している。サプライチェーンの主要各国の為替レートが下がったことが原因である。また本稿は、中国の加工品輸出の輸出関数を推定し、サプライチェーン全体の為替レートが中国の加工品輸出に影響を及ぼすことを説明する。

中国の低級一般製品の輸出の大半の付加価値は国内で生み出される。したがって、一般製品の輸出は主に人民元の影響を受ける。韓国や台湾などのサプライチェーン諸国の通貨は上昇せず、人民元高になった場合、一般製品輸出の価格競争力は大きな影響を受けるが、加工品輸出の価格競争力はあまり影響されない。図2に示されるように、中国の一般製品貿易は2009年以降赤字となっている一方で、加工品貿易が大きな黒字であることはこのことによって説明できる。

加工貿易を均衡化するには、個々の国レベルではなく生産サプライチェーン全体で柔軟な為替レートを実現する必要がある。中国など、黒字国の中央銀行が協調的に外貨準備蓄積率を引き下げ、市場原理に任せれば、加工貿易黒字と経常収支黒字によって、輸出相手国の通貨に対して東アジア諸国の通貨が全般的に押し上げられ、ひいては加工貿易の均衡化に役立つであろう。

そうなれば、第三国向け輸出における東アジア諸国間の競争も緩和されるだろう。東アジア諸国が協調的に通貨を切り上げることによって、域内における為替レートの安定が維持され、生産ネットワーク内の部品の流れも円滑に進む。また、外貨準備が国内流動性に及ぼす影響を不胎化することによって生じる非効率な資源配分についても抑えることができる(Yu, 2014参照)。さらに、国民の購買力も高まり、最終財がアジアに向かうことになるだろう。

図1:人民元実質実効為替レート(REER)、サプライチェーン各国の加重平均REER、両レートを統合したREER(IREER)の推移
図1:人民元実質実効為替レート(REER)、サプライチェーン各国の加重平均REER、両レートを統合したREER(IREER)の推移
出典:国際決済銀行、中国通関統計、国際通貨基金「国際金融統計」をもとに筆者が計算
図2:中国の一般貿易収支、加工貿易収支、および貿易総額
図2:中国の一般貿易収支、加工貿易収支、および貿易総額
出典:中国通関統計