ノンテクニカルサマリー

集積と内生的出生率

執筆者 森田 忠士 (近畿大学)
山本 和博 (大阪大学)
研究プロジェクト 地域の経済成長に関する空間経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「地域の経済成長に関する空間経済分析」プロジェクト

図:合計特殊出生率と人口規模(2010)
図:合計特殊出生率と人口規模(2010)

この図は日本の都道府県の人口と合計特殊出生率の関係を示している。人口規模が大きい都道府県では合計特殊出生率が低く、人口規模が小さい都道府県では合計特殊出生率が高くなることが示されている。

本論文は都会における企業の集積、そしてそれによる消費財の多様性によって地域間の出生率の格差がもたらされる事を示した。東京、大阪の様な大都会では多くの種類の財が生産され、消費者はその多様性を楽しむことができる。そのため、名目所得の価値が都会の方が高まる。この時、消費者は都会では長期間労働することを選択し、子供の人数を減らしてしまう。都会においては子育ての機会費用が高くなるのである。高速道路の整備、鉄道、航空輸送の発達により、企業の都会への集積は一層すすみ、それによって出生率の低下も進行する。つまり、大都市地域への人口の集積は今後も進んで行くことが予想されるのである。都会に企業が集積するとその地域での出生率はより低下する。また、輸送費用の低下によって大都市以外の地域においても出生率が低下する。つまり、全体の出生率が低下するのである。しかし、この事は輸送網を整備することを進めることに反対するものでは無い。そもそも、輸送費用の低下により、経済厚生は向上しているのである。従って、出生率の低下を防ぐためには別の方面からの対策が必要になる。

少子化に歯止めをかけるためには、子育ての機会費用が高くなることを止めることが有効である。子育てをすることで労働供給が減少しないようにすることが重要であり、それは東京や大阪の様な大都会で行われることが、より必要になる。具体的には都市部の保育施設の充実化を中央政府が行う事が必要である。子供そのものが公共財であるならば、その供給を進める政策を地方政府が担う事は非効率性を生む可能性がある。ある地方政府が保育施設の充実を行うと、足による投票が行われ、その地域に人が移住する。結果としてその地域では保育施設が新たに必要になる。このような場合、保育施設は全ての地域で過小供給になる。中央政府なら、そのような移住を考慮に入れた上で保育施設の供給を進めることができる。従って、子供が公共財であるなら、中央政府がその保育施設の供給を進めるべきである。

そして女性の育児後の職場復帰、もしくは再雇用を容易にする柔軟な労働市場の育成が子育ての機会費用を下げ、出生率の低下に歯止めをかける政策になる。しかし、その費用を企業に負わせることは非効率性を発生させる。すなわち、出産育児に伴う費用を企業に負わせると、企業は女性の雇用を減らす可能性がある。そこで、中央政府による介入が必要になる。出産、育児の時に企業が負担する費用を補助金として企業に支払う事が具体的には考えられる。また、解雇規制の緩和を進め、労働市場そのものの柔軟性を高めることも必要である。解雇規制を緩和することで再雇用が進み、女性の出産後の職場復帰が進む可能性がある。

労働時間に応じてではなく、労働成果に対して賃金を支払うことも重要である。現在のような労働時間に賃金を支払うシステムでは男性の労働時間の削減は進まず、育児に参加することは難しいままだし、育児に時間を取られる女性の雇用は進まない。労働成果に賃金を支払うシステムを導入することで、柔軟な労働時間の導入が進めば、子育ての機会費用は低下すると考えられる。